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私、学び、幸せ。ぐるぐるスパイラル|vol.3地域拠点づくり、新たな活動。読書が次の扉を開く

インタビュー

なりたい私がある。学ぶことで私が新たに作られる。少し幸せに近づいた気がする。そのうちにまた、なりたい私がみえてくる。
「私」「学び」「幸せ」。ぐるぐると螺旋を描くように、3つをくりかえしながら進んでいく。
社会の変化を気にしながらも、自分らしく生きるためのヒントは、このスパイラルにあるのではないか。
そう考えて、「学ぶ人」たちに話を聞くことにしました。

鬼木基行(おにきもとゆき)さんは会社勤めの傍ら、2019年に豊田市金谷町の地域拠点「みんなのお勝手さん」を地域の方と一緒に立ち上げ、その場所で月に1回「まちの居場所Kanaya Camp(カナヤキャンプ)」を開催して、地域交流のきっかけを作り続けています。仕事でも、地域活動でも、「どうしたら関わる人みんなが当事者になって、めざす未来に近づくことができるか」を考え、実践しています。

そのベースにある学びと実践力の源泉についてお話しを伺いました。

 

老若男女だれでも気軽に集える場 Kanaya Camp

 

―現在の活動を教えてください。

2021年まで住んでいた豊田市金谷町で、2019年からまちの居場所づくりKanaya Camp(以下、KC)の活動を続けています。この地域は単身世帯と家族世帯と古くから住む人とが混在して、互いに交流がない地域です。特に子育て世帯は小学校に就学すれば子どもの関係で知り合いが増えてくるんですが、就学する前までは地域との関わりが全然なくて、困っているお母さんの話をよく聞くんですね。

そこで地域の人が、気軽に集まれる場づくりをしたいなと思って始めたのがKCです。ご近所仲間で、私と同じ豊森なりわい塾を受講していた堀田さんご夫婦と一緒に、この辺りで使える場所を探していたところ、井出さんという土地のオーナーに出会い、使用許可をいただくことができました。

向かって左から5人目が土地のオーナー井出さん 、7人目中央が鬼木さん

 

 

近くの勝手神社で第一日曜日の午前中に月次祭(つきなみさい)が開催されているので、その時に合わせてコーヒーなど飲み物のふるまいをして、交流が生まれるようにと企画したのがいちばん最初です。

その時から地域の方は意外と集まってくれました。地域とつながりのある井出さんが知り合いに声をかけてくれたからです。ある方は三丁目の夕日(昭和30年代の下町を描いた映画)を思い出させる自転車にアイスキャンデーの箱を載せて、本当にアイスキャンデーを入れて持ってきてくれ、ふるまってくれたんです。子どもたちも大喜びでした。

 

クラウドファンディングに挑戦!

 

ー場づくりの資金は、どのように集めましたか?

KCを月に一度、行っていたところ、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で SDGs ✖️中部電力のマッチングギフト(集めた寄付と同額を中部電力がギフトとして提供してくれる制度)を採用したSDGsプロジェクトが実施されることを知り、それを活用して「みんなのお勝手さん」の整備に挑戦しました。

 

このクラファンで集めたお金で、井出さんの敷地にソーラーパネル付き東屋を建て、V2H(電気自動車などに蓄えた電力を住宅用に利用するシステム)と、蓄電池一式、雨水タンクを購入しました。東屋の設計はデザイン会社をしていた井出さんが担当、地域材は豊田森林組合で入手し、建築もお願いしました。KCは月に一度ですが、このクラファンで作った常設の居場所は「みんなのお勝手さん」(以下、お勝手さん)と呼んでいます。

撮影に伺ったのは、クリスマスが近づく12月のある日。近所の方たちが張り切って飾り付けてくれたというツリーとイルミネーション。

 

東京にあるコインランドリーとカフェを併設した「喫茶ランドリー」を手本に、井出さんがお勝手さんに「金谷カフェ」とコインランドリーを作りました。「喫茶ランドリー」を作った田中元子さんをお呼びして、朝日丘交流館で講演会もしました。

 

「お勝手さん」で人がつどい、育つということ

 

ー「お勝手さん」はどんな方がどんなふうに使っていますか?

お勝手さんにあるランドリーは子どものたまり場にもなっていて、ある時、すごい音がしたので井出さんが見に行ったら、小学生が本に埋もれていたそうです。遊んでいるうちに本棚を壊してしまった様子だったということです。ケガはなかったのですが、何も言わないでいたらしく、「謝りもできんのか!」と、子どもたちに井出さんの指導が入りました。

 

近所のおじさんに叱られるなんて昔は当たり前でしたが、今は全然ないじゃないですか。お勝手さんではそれがあるっていうのがいいなと思いました。近所で𠮟ってくれる大人がいる!ここではこういうエピソードがいっぱい生まれているんです。ちなみに本棚は井出さんが直してくれました。

地域の人と防災について考えたいなと思って、防災キャンプという企画もやってみました。「#楽しい防災」をテーマにして、テントを張りホワイトボードを出してきて、どういうことをやったらいいか、どういう備品が必要かというのを、地域のおじいさんと子どもたちが一緒に対話して、防災双六をやって楽しみながら防災を学びました。

 

お勝手さんには豊田高専生や中京大生も来てくれています。ここは単純に居場所を作っているだけなので、こちらから指示をして「特定のテーマをやってください」、「これお願い」っていう感じではないので、学生たちは最初は何をしたらいいのかわからない様子だったんですけど、最近は自ら率先して動いてくれています。

井出さんが持ってきたアウトドア用の机と椅子を子どもたちと一緒に組み立てる学生のみなさん

無事完成して、みんなで柿をほおばりながら笑顔

 

高専の鉄道航空研究会が電車を持ってきてくれたり、大学生が子ども達に折り紙を教えてくれたり。学生たちがどんどん成長していく様子が見られるんです。人が成長するのを見るのって、こんなに気持ちがいいものかというのが、最近思うところですね。ひとりひとりが自主性を持って、やれることをやる。そういうのをお勝手さんは明確に示しているわけではないけれど、結果、それが起きていったらそんなうれしいことは無いです。

若者だけでなく、石油とかエネルギーの課題意識を持っているシニア世代の方がここで勉強会を開くなど、高齢の方のアウトプットの場や交流の場にもなっています。こんな風に、お勝手さんがまちの居場所になって、自治の意識が高まって、地域で人を育てるようになっていくと、地域も活性化するし、この地域で人が育っていけば、きっと職場でも好影響を及ぼす。そんな正の連鎖が、今後生まれていくといいなと思います。

ここ最近では、すぐ近くにお住まいの方の畑で耕作放棄地になっているところを、農家の方に指導してもらって10組くらいの家族で耕していく。そんな新たな計画も動きはじめています。

 

システム思考で考える

 

地域の活動については、この図のような「システム思考」をベースに考えています。システム思考とは物事のつながりや相互作用を図に落とし込む思考法で、問題を根本的に解決できるのが特徴です。

 

金谷町だけで起きていることではないと思いますが、地域コミュニティーとのつながりがない移住者が増えると、生活が家中心になり、仕事をしている人は職場と往復するばかりになります。地域との関わりはどんどんなくなって、まちの居場所がなくなっていくループができてしまいます。まちの居場所がないと、家中心の育児に拍車がかかり子育てをしている人たちは孤独を感じるようになっていきます。孤独を感じると笑顔が減って、笑顔が減ることでますます孤独になるという、負の連鎖に陥ってしまう。

そんなふうに起きていることを観察して、考えてみました。月一回KCを開くことをキッカケに、移住した家族・単身・地元の人の交流の場を作るとまちの居場所ができ、居場所ができると、職場との往復&家中心の育児から離れられて、まちに顔を出すようになる。このサイクルが回り始めると、孤独が減って、笑顔が増えるループができて、正の連鎖が起こるんじゃないかと想定しました。

そんな思いから月に一度のKCを始めました。

KCを始めたころには私はまだシステム思考には出会っていなかったので、上のような図は作れていませんでしたが、その後、『学習する組織』を学ぶ半年間の講座に参加して具体的にイメージ図を描けるようになっていきました。

 

この地域を題材にして、区長さんと一緒に地域でどういうことが課題になっているかを確認しながら、地域のプレイヤーと一緒にこのシステム図を作っていきました。システム思考のシステムループ図の良さは、誰かが最初に書いてみて、それをベースに、「これだけでなくこういうループもあるよ」だとか、「ここが実はこっちに繋がるのでは」だとか、会話をしながら創り上げていけることですね。

 

ー『学習する組織』を学ばれたということですが、どんな内容なんですか?

マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲさんの著作です。学習する組織は、システム思考を基盤にしながら、複雑化した経営環境に適応するために学習し、進化し続ける組織のことを指します。

私は職場でDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を用いた変革)担当なのですが、DXってひとつの部署でできることではないので、全社横断でいろんなバックグラウンドを持つ人たちとどうやって協業して変革を達成していくかを学びたいと思っていた時に、『学習する組織』に出逢いました。

具体的には、ちょうど社内で新しい電池の会社を立ち上げた頃で、関西にある製造工場のスタッフと、どのように協働してデジタル変革していくかという時期でした。工場との関係性や距離の壁など、いろいろな課題を感じていたところ『学習する組織』のマンガ本と出会いました。

経営企画担当の仕事をしている主人公が、工場のスタッフに会社の新しい体制と方針を伝えに行くけれどもなかなか協力を得られない状況の中、『学習する組織』を学びながら問題解決していくんです。まさにその時の自分の悩みに似通った内容でした。2020年の1月くらいにその本を読んで「これはいいな!」と思って、3~4か月実践してみたら、ちょっとずつ変化があったんです。

自分が変わることで、組織が変わっていった感覚ですね。更に5月の連休に書籍版を読んで、これがもう非常に良かった!その後、『学習する組織』の講座の告知を見つけたのですが、申込締切がなんと1週間後!「DXを進めるためにすごく役立ちそうなので受けさせてほしい!」と超特急で会社と折衝し、受講することができました。

『学習する組織』の講座つながりで、SoL(Society for organizational learning)ジャパンという『学習する組織』を実践するコミュニティがあることを知りました。そのホームページでIDGsサミットの開催の情報を知って、参加することにしました。

 

ーIDGsとは何のことでしょうか?

IDGsは「Inner Development Goals(内面の成長目標)」の略です。SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)が2030年までの計画に対して、全然達成の目途が立っていない現状から、その実現には「内面の成長」が重要なのでは、と有識者が議論し始めています。

内面の成長目標を決めた上で、SDGsの活動をしないと意味のある活動にならないのではという考え方です。IDGsを広めることで、SDGs達成の為に何をすべきか、それを進めるためにはどのような人材が必要でどのような能力が重要か、これまで全く議論されていなかったので、それを検討する組織です。

IDGsの本部はスウェーデンにあるんですが、まだできたばかりで、SDGsのように規格がガチッと決まった状態ではありません。SDGsでいえば17の開発目標があるように、IDGsでも5つの目標が決まり、その下の23の項目がやっと決まった状態です。また、どのようにして達成する能力を高められるかという教育ツールについても検討中です。

私は今年の4/29に開催された第1回の国際サミットに参加したのですが、各国の参加者でものすごい盛り上がりと熱気を感じる会でした。このIDGsが広まることで世の中がもっと良くなる可能性を感じましたし、IDGsの活動を通して私自身も貢献し成長できる可能性を感じたので、JAPAN Hubの実行委員になりました。今はIDGsをどうやって広めるかという企画を検討中です。

 

ー『学習する組織』の本がきっかけで、新しい活動への扉が次々と開いていますね。

新しいことを始める時に何か読むっていうのは習慣になっています。また、IDGsを知ったことで自分の中にも変化があって、最近、詩集を読んでいます。詩を読むことで、日頃、業務をしている時に忘れがちな大切なものに、気づかせてもらえるような気がします。詩を通して自分を見つめるような、そういう時間になっていると思います。

KCでは、「お勝手マイパブリック」と称して、貸本屋を始めました。自分が読んだ書籍を並べて、本をコミュニケーションツールに会話し、読みたいなと思ってくれた方には、翌月のカナヤキャンプまで無償で貸出をしています。今のおすすめはスティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』の続編『第8の習慣』です。M・エンデの『エンデの遺言』はこれから読もうと思っている本です。

最近では、SNSに時間を使いすぎてしまうという話をよく聞きます。エンデが『モモ』で言うところの「時間泥棒」のようですね。本当に怖いですよね。使う時の心の在り方や目的を、ひとりひとりが自覚して使わないと、どんどん欲望に流されちゃう。

IDGsも『学習する組織』も『第8の習慣』の内容も、最終的に内面的な「人の在り方」に集約しています。どの本も最終的にメンタルモデルやあり方の重要性にたどり着くんです。「どの道をたどるか」「どうやって伝えているか」の違いのように見えてくる。人の本質って、結局メンタルモデルやあり方の重要性にあるんだってことを各分野の専門家が確認している感じ。そこで繋がっているんだと感じています。

※貸本屋モトのnoteはこちら  https://note.com/kashihonya_moto/n/n74e26e9442dc

鬼木基行(おにきもとゆき)さん|2019年に金谷町の地域拠点「みんなのお勝手さん」を地域の方と一緒に立ち上げ、月に1回「まちの居場所Kanaya Camp」を主催、『貸本屋モト』として無償で本を貸し出している。『学習する組織(ピーター・M・センゲ著 2011英治出版)』を読んだことがきっかけで、SDGsの下支えとなる国際活動IDGsのJAPAN Hub実行委員を務める。豊森なりわい塾9期卒塾生。

松本 真実

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北海道小樽市出身。ベルクマンの法則に則り身長173㎝。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。豊森なりわい塾事務局。目下の関心ごとは自給自足や自治...

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