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何もしなくていいの?小学生の農山村体験をお手伝いして学んだこと【モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録#5】

コラム

モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録では、現役大学院生の市川里穂さんが、大学生だった頃、豊田市旭地区に短期滞在したこと、その前後をふり返ります。田舎出身なこと、自分について、モヤモヤしていた里穂さんの目に田舎はどう写ったのでしょう? カバー・文中イラスト:るり(Twitter@kknk_1217)

〜あらすじ〜
高校まで、“何もない”農山村で生まれ育ち、息苦しかった私。大学で都市部に出るも、なぜか心が満たされずモヤモヤし続ける日々…。大学2年生の時、ひょんなことからTEDxNagoyaUを見に行き、そこで出会った高野先生が住む豊田市の中山間地域・旭地区にお試し移住をすることに。夏休みの3週間、福蔵寺を拠点にしながら移住者の暮らしに密着させてもらう。

前回のコラムはこちら

 


 

わたしがお試し移住をしていたのは、ちょうど小学校の夏休み期間だった。
豊田市で毎年開催されているセカンドスクール事業のスタッフをやってみないかと声がかかり、チャレンジしてみることにした。

 

セカンドスクールとは、豊田市内の小学生を対象に、農山村部において1泊~2泊の農山村体験、農家ホームステイを実施している。市の補助を受けて行われているおいでん・さんそんセンターの事業だ。
校内での通常授業(=ファーストスクール)に対し、農山村での体験授業を「セカンドスクール」と呼んでいる。セカンドスクールには学校単位で学年のすべての子どもたちが学校教育で参加する「セカンドスクール」と、学校が休校日の日に希望する子どもたちの農山村体験を行う「セカンドスクール フリー版」がある。

 

農作業や自然の中で「ほんものの体験」を通じて、共同作業や世代を超えて交流することで生きる力を育み、地域社会についての理解が深めることが目的だ。
農業・林業体験、食の体験、自然体験、生活文化体験(ものづくり)など様々な体験ができ、子どもたちにとって貴重な経験になる。

 

そして、「セカンドスクールフリー版」の旭地区の開催地のひとつとなっているのが、わたしが3週間拠点にさせてもらっていた福蔵寺だ。
スタッフはほぼ地域在住の大人たちで、あとはわたし含め3人のボランティア学生の総勢15名ほどで担っていた。

 


セカンドスクールについて(おいでん・さんそんセンターホームページより)

 

「山っこくらぶ」1日目の朝、ぞくぞくと、参加者の子供たちが親御さんと福蔵寺に集まってくる。
わたしはスタッフを引き受けたものの、ものすごく子どもに苦手意識があった。

 

というのも、年の離れた子どもと遊んだ経験が少なく、どう接するのが「正解」なのかが分からないのだ。
なので、参加者がそろってくればくるほど内心は恐怖でいっぱいになった。

 

しかし、外見だけは完全に大人なので逃げられない。
私を見つけるなり「先生!」と駆け寄ってくる子もいた。いや、アテにしないでほしい。プレッシャーがすごい。

わたしは、子どもたちには「トイレ行ってくるわ!」とだけ言い残し、スタッフである地域住民のみなさんのもとへ逃げた。
そして、「わたし、子どもの扱いが苦手なんですけど、どうしたらいいですか??」と不安を打ち明けてみた。

 

すると、みなさんからは口を揃えて「何もしなくていいよ」という言葉が返ってきた。

 

いや、大人ってやっぱり何か教えてあげるべきなのではないか?と不思議に思っていると、

 

「子どもだからって特別扱いする必要はないよ。ここは、子どもと大人というよりも人間と人間の関係性を学ぶ場だしね。
だから大人も、やりたくないことはやらなくていいし、疲れたり気持ちがしんどいときは自由に休んでいいよ。」と言われた。

 

学校のような場をイメージしていた私は、「それでいいのだろうか?」という疑問を残しつつ、山っ子くらぶのスタッフとしての2日間がスタートした。

まず開校式があり、自己紹介をし合ったのち、すぐに大人たちの車で近くの川へ向かった。
夏の山っこクラブでは、川で水遊びをしたり、手づかみでとった魚を焼いて食べたりするアクティビティがメインになっている。

 

川に到着するなり飛び込む、元気いっぱいの子供たちとスタッフ陣の姿があった。

 

一方でわたしは、子どもの扱いもわからなければ、水遊びも苦手だった。
水に足浸けるくらいならいいけど、水のかけあいとか、激しい遊びには参加したくないというのが本音だった。体力ないしなぁ

 

でも、冷静に見渡してみると、スタッフの中でも水に入らず子どもを見守る人たちもいた。

 

わたしは「大人も、やりたくないことはやらなくていい」という言葉を思い出し、あえて水には入らずに岩場のほうから川を眺めていることにした。
20代のスタッフの中では唯一そうしてみた。

 

すると、ゆっくり車から降りてきた低学年の女の子がなぜかわたしのところにやってきて「実は、水が怖い」「遊びたくない」と教えてくれた。
たぶん、スタッフの中だと比較的若く、1人で「遊びたくない」オーラを出しているわたしが、彼女にとって一番声をかけやすかったのだと思う。

何を話していいかわからなかったので、わたしが持っていたデジカメで遊んで過ごしていた。
そのうち、数人が休憩がてら水からあがってきて、カメラ遊びに加わって、いつの間にか友だちになっていた。

 

そのあと、女の子がボソッと「ちょっとだけ水に入ってみたい」とつぶやいたので、
「それならわたしもやりたい!」と意気投合し、サンダルを脱いでひざ下まで脚を浸けてみた。

 

ひんやりしてとても気持ちよく、そのままお喋りしているだけで十分幸せだった。

 

地域住民の方々がいうように、「大人も無理をしない」って大事だと思った。

ありのままの自分で居ることが、困っている誰かにとっての励ましになるのかもしれない。

山っこくらぶが終わって、福蔵寺にいるのもラスト1週間になった。

 

お寺の管理人であり株式会社M-easyの戸田さんから、「予定はつめすぎずに、ゆっくりしなよ」と言われていたこともあって、
予定をあえて何も入れていなかった。

 

はじめは高野先生から借りた本を読んだり、お寺の周りを散策したりしていたけど、
しだいに時間を持て余すようになって、そわそわするようになってしまった。

 

恥ずかしい話だが、当時の私はスマホ以外の趣味がなかった。

 

一方で、お寺の住人たちは、縁側でギターを弾いたり、居間でアクセサリーをつくったりしていた。
ここの人たちは、スマホで自分の能力を拡張しなくても、等身大で楽しむ力がすごいなぁと感心していた。

 

そのうち、インターネットに頼らずにできるアナログな趣味がないことに悔しさというか、劣等感を覚えるようになっていた。

 

そのモヤモヤに耐え切れず、一旦大学の下宿先に戻りたい気持ちが強くなっていった。
そして、予定よりも1日だけ早くお寺の人たちに別れを告げて、おいでんバスで山を下り、下宿先へと帰宅をした。

 

市川里穂

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大学時代、モヤモヤしていた頃、TEDを聞いたことがきっかけで豊田市旭地区のお寺に飛び込み滞在。「ミライの職業訓練校」に参加し、人生のモヤモヤを更に深めつつ、...

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