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3週間のお試し移住で得たのはポジティブなモヤモヤ!【モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録#6】

コラム

モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録では、現役大学院生の市川里穂さんが、大学生だった頃、豊田市旭地区に短期滞在したこと、その前後をふり返ります。田舎出身なこと、自分について、モヤモヤしていた里穂さんの目に田舎はどう写ったのでしょう? カバー・文中イラスト:るり(Twitter@kknk_1217)

〜あらすじ〜
高校まで、“何もない”農山村で生まれ育ち、息苦しかった私。大学で都市部に出るも、なぜか心が満たされずモヤモヤし続ける日々…。大学2年生の時、ひょんなことからTEDxNagoyaUを見に行き、そこで出会った高野先生が住む豊田市の中山間地域・旭地区にお試し移住をすることに。夏休みの3週間、福蔵寺を拠点にしながら移住者の暮らしに密着させてもらう。

前回のコラムはこちら


 

下宿先に帰ってからは、いつもの大学生活が始まった。
毎日朝から晩まで授業があり、放課後はサークル、アルバイト。バタバタと時間が過ぎていく。

旭地区のお試し移住をやめるきっかけになった「スマホ以外の趣味を作りたい」という気持ちもいつの間にか頭の中から消えていった。

でも時々、1人になった時に、旭地区での3週間を思い出すと、優しくてあたたかい夢を見ていたような感覚になった。
特に、山っこくらぶで得た「ありのままの自分で居てもいい」という安心感は、ゆらゆらと上下しやすい自己肯定感の下底を作ってくれたように思う。

そして大学卒業後、私は実家暮らしをしている。

大学院生になってからは実家から学校に通うようになった。
家を出てから大学に着くまで片道3時間かかる。通学で使うバスや電車は、想像以上に観光客でごった返していて、精神的に疲弊していた。

周囲をシャットダウンするために本を読んだり音楽を聴いたりと工夫はする。でもあまりにも疲れると、その工夫をする気力もなくなり、疲れ、最終的に自分を責めてしまうという悪循環に完全にハマっていった。

 

実家にはどう頑張っても外が暗くなってからしか帰れない。
調子が良い時は問題ないが、「学校の近くの、街の方に住みたい」という思う時も度々あった。

そしてまた田舎のことを嫌になり始めてしまいそうになっていた。

 

 

通学時間にモヤモヤして、本格的に引っ越しを検討していた2020年2月。

現在も猛威をふるい続ける、新型コロナウィルスの感染拡大が始まった。
徐々に、都市部を中心に感染者が増えていくのをTVで聞くだけでも完全に怖気づいてしまい「今は地元にいる方が安全だろうな」と、引っ越すのをやめた。

 そのうち1回目の緊急事態宣言が発令された。私の住んでいる県は宣言の対象外ではあったが、大学では4月からの授業が2ヶ月ほど停止になった。
あの時期、社会人はもちろんだが、学生には学生の辛さがあった気がする。

そんな中、SNSでは「#おうちじかん」の投稿が流行るなど、辛い状況をポジティブに捉え直そう!というムーブメントが起こっていた。
それに乗っかって、私も「環境に言い訳してないで、家で楽しく過ごす工夫をしてみよう」と思った。

今振り返ってみると、ここからじわじわと、旭での3週間で見たものを、自分の日常にも活かすようになった気がする。

まずは、ついつい後回しになっていた自分の部屋の片付けをした。

これはこの時期にNetflixで「Queer Eye in JAPAN」を観たのがきっかけだった。この番組はファッションやメイク、インテリアなど5人の専門家が、1週間かけてプロの技術を駆使し、自信のない人を魅力的に大改造するリアリティーショーだ。

とあるエピソードで、日本に生きづらさを抱える主人公がインテリアのプロから言われていた「君の部屋は、あまりにも殺風景で日本を出ていくことしか考えていないのがわかる。君の未来も過去もコントロールできないけど”今”の自分なら幸せを作り出せる」という言葉が心に残った。

同時に、今・ここを楽しんで暮らしている旭地区の皆さんを思い出した。

使わないものを捨てた。それまではネットショッピングに抵抗があったけれど、思い切っていろんなインテリアを買って並べてみた。そうやって自分にとって”美しい”空間に近づけていくうちに、今に集中できるようになって、田舎暮らしへの不満も消えていった。

いろんな物をどかした後に、窓から見える大きな山を「いいな」と思えた。 

あとは、散歩をして、1日の中で自然に触れる時間を増やした。

旭地区に住む人たちは、植物の名前に詳しい人が多くてカッコ良かったので、ネットで「食べられる野草」の本を買ってみたりした。その辺にある植物の種類が分かってくると、また今・ここを楽しめているようでうれしくなった。

そして、2回目の緊急事態宣言下はしんどい気持ちになることもあったが、散歩していると自然の大きさに救われてラクになれた。

緑豊かな地元を「贅沢だなぁ」と心から思えるきっかけになった。

コロナ禍によってたくさんの「常識」がアップデートされた。地方に暮らす私が特に嬉しかったのは、情報を手に入れるハードルが下がったことだ。
例えば、授業もネットがあれば受けられるし、都市開催のイベントもPCで視聴できるようになった。

移動時間が少なくなった分、家族と過ごす時間も増えたので、旭地区で出会った皆さんの家族を大切にする姿を見習ってみようと思えた。

ときどき、料理をして家族に振る舞うようになった。お金を出して、店で食べるものだと思っていたスパイスカレーをスムーズに作れるようになった。

料理をするようになってからは、「スマホに頼らずに何かをつくりだす」感覚にハマったし、それで家族に喜んでもらえるのが嬉しかった。

終わりになるが、旭で暮らしたおかげで、田舎にモヤモヤしていた感情の根っこが見えてきた。

それは、「住む場所と普段の活動拠点があまりにも離れている」ことだ。

地元が大嫌いでなくても、学習塾や職場は地域外にあるので、必然的に家でリラックスしたり家族で過ごしたりする時間は少なくなる。

しかし、旭で出会った皆さんは、あくまでも”地域での暮らし”をベースに仕事をしていた。
それが良い連鎖を生んでいるのを見て、「田舎」そのものが悪いわけじゃないということに気づいた。

地域で暮らし、心地よく仕事をする。”当たり前に”そこにある自然や地域の仲間が面白くなってくる。
一緒に過ごす時間と共に感謝が生まれ、一人一人の居場所ができる。

感謝の日々の中で、ふと「自分も地域で何か楽しいことをしてみたい」という気持ちになる。
それが地域をさらに面白くしていく…というポジティブな循環があり、働くことが地域の幸せに直結するのを肌で感じることができた。

豊田市の中山間地域が「とんでもなくクリエイティブ」なのは、きっと地域の中に、
一人一人が「そのままでいいんだ」と安心できる土壌があるからなんだと思う。

そんな田舎のあり方を、他の地域にも広げていきたい。でも自分に何ができるのかわからなくて、モヤモヤしている。
でもきっとこのモヤモヤを大切にしていれば、何か行動を起こせる日が来る予感がしている。

その日を夢見ながら、これからも関係人口として旭地区とのご縁が続くようにと願っている。

市川里穂

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大学時代、モヤモヤしていた頃、TEDを聞いたことがきっかけで豊田市旭地区のお寺に飛び込み滞在。「ミライの職業訓練校」に参加し、人生のモヤモヤを更に深めつつ、...

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