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障がいの有無関係なく”好き”を仕事にして、限界集落の農を継承する/(一社)日本福祉協議機構

縁側求人

「今回の求人、ヒエラルキー嫌いな人集合っていう見出しでもいいと思っています」

濱野さんの言葉が印象に残っています。

 

ヒエラルキーとは、権限を持つ人が上にいて、下にいくほど地位が下がり人数が増える階層構造のこと。

 

「多数派、強者の理屈で、『障がい=劣っている』というレッテルをはることが、障がい者を社会から分断している」

 

今回の取材を通し、一般社団法人日本福祉協議機構(以下、日本福祉)を率いる代表濱野剣(はまのつるぎ)さんの笑顔の裏に、社会への強い問題意識があると感じました。

 

障がい者と社会をつなぎたい。

その実現のため、日本福祉は「自分のためではなく障がい当事者の利益のために行動する」という軸をぶらさずに事業を作り続けてきました。

ここ数年は、フードロスやゴミ問題に向き合うグラノーラ専門店、獣害駆除された肉を美味しく提供するジビエレストランなど、社会課題にも取り組む就労継続支援B型事業所(※)(以下、B型事業所)を次々に立ち上げています。

(※)一般企業に雇用されることと雇用契約に基づく就労が困難な方に対して就労機会の提供、および生産活動の機会の提供を行う障がい福祉サービス

その姿に賛同する仲間は増え続け、当初3名だったスタッフは、設立から15年で400名を超えました。

就労支援B型事業所としてグラノーラを量り売りで販売する専門店グラニー(写真提供:日本福祉)

 

2021年から日本福祉が注力しているのが、豊田市足助地区の山奥にある大多賀という過疎の集落での活動。地元の人たちに教えてもらいながら、米づくりやしいたけ栽培などを互いの森プロジェクトと名付けて進めています。

 

2025年春、大多賀に自然体験ができる施設をB型事業所としてオープンするため、そこで農業や福祉の仕事をする新しい仲間を募集することになりました。

 

経験がなくても、資格がなくても大丈夫。必須なのは、人に真摯に向き合う姿勢。そして「地域再生」「農福連携」「自然が好き」「田舎で地域と共に生きる」こんなワードに少しでもピンときた方は、読み進めてみてください。

 

目の前の人の課題に向き合い続けて今がある

 

豊田市駅前にある商業施設の8階。
日本福祉がB型事業所として昨年オープンしたUNIBO(ユニボ)という施設がある。

そこで、代表の濱野さんを取材することになりました。

ユニボは、eスポーツ、メタバース(仮想空間)、VR(仮想現実)などのデジタルやテクノロジーを楽しむことができるアミューズメント施設。

不登校や引きこもりの子どもたちの居場所としても注目されています。

広々とした店内を眺めていると、代表の濱野さんが現れ、カフェの席に座るよう促してくれました。

早速、設立の背景から聞いてみました。

 

濱野さんは、異色の経歴の持ち主。高校を中退後、フランスに渡って浮世絵を売り、19歳で画廊を開き、バックパッカーで世界を渡り歩いてきたそうです。

その後、通信、デザイン、プログラミング、出版の会社を経営するうちに生き方に迷うようになったといいます。

「会社を起こすと5年くらいで目標達成できて、お金も儲かる。その状況になると飽きるので、新しい会社を作るということをくり返していました。あり余るほど稼いでもギャンブルで使いはたすだけ。僕にとってお金はその程度の価値しかないことに気づきました」

 

お金のためではなく、社会のために生きようと決めた濱野さん。自分の会社で少年院から出た子たちを雇っていたことで、非行、引きこもりといった社会問題があることを知ります。

多数派がその子たちを問題児だと決めつけているだけではないかと疑問に思いました。そういう子たちを社会とつなぐ必要がある。見過ごせませんでした」

濱野さんは自身の会社をたたみ、希望を持って非行少年や引きこもりの支援団体で働き始めるものの、思い描いていたのとは違う現実に落胆しました。

 

「何のためにやるのか。当事者のためのはずなのに、そこのやり方は違っていました。お金と自分たちのため。正しいと思うことは自分の手でやるしかないと思いました」

 

2009年に日本福祉を設立。少年院を出た子、非行少年、引きこもりの子たちと一緒に生活したり、仕事を探したりする見受け人になることから始めました。

 

わかってきたのが、少年院を出ても再び罪を犯してしまう子たちに軽度の障がいがあること。そこで、行き場のない障がい児が日中通えるデイサービスを始業。また、緊急時に宿泊できるショートステイも開設しました。

 

ひとつ事業を始めると、向き合っている人が持つ課題が見えてくる。どうにかしようと必死になって新しい事業を始める。その積み重ねで今があります」

その流れのなかで、2017年には世界の昆虫と植物のお店アペロ・ヒューレを日本福祉で初めてのB型事業所としてオープンしました。


アペロ・ヒューレは大人気のお店となり2022年に生き物に特化した専門店アペロヒューレ・ビオスを別館としてオープンした(写真:日本福祉提供)

 

「小学生の時から関わってきた障がいを持つ子たちが、高校卒業後に働く場所がないという課題が浮上しました。ある子が『植物や昆虫のお店で働きたい』と言ったので、それならやってみるかと始めました」

 

 

お互いのためにの「サボりましたよね」

 

「好きを仕事にしよう」

濱野さんはこの言葉をスタッフと利用者(=日本福祉の事業所を利用する障がい者)に言い続けています。

「嫌いなことじゃ働けないじゃないですか。僕は全くできないです」

「例えば、シェフを辞めて福祉を学びたいと入ってきたスタッフがいました。ヒアリングを重ねていくと、やっぱりシェフをやりたい気持ちがあると。それならやろうよ、とジビエレストランをB型事業所として作りました」

 

日本福祉のB型事業所では、6年連続、障がい者の工賃時給として愛知県内の最低賃金以上を支払っています。

その金額は、時給1,030円以上(2023年10月〜)。厚生労働省が公表している2022年度のB型事業所平均工賃は時給243円なので、およそ4倍以上ということになります。

 

「この工賃を支払うためには、ビジネスとして成立させなければなりません。そのためには、好きを仕事にするための責任が伴ってきます」

「利用者が仕事をサボったら、その分の工賃は払いません。ほとんどの人は『あなたサボりましたよね』って言うのが嫌だと思いますが、スタッフはそれを指摘する必要があります。放っておいたら、その利用者が後の人生困ることになるからです」

もし、指摘された人が「サボっていない」と返してきた場合はどうするのでしょう。

「サボるってどういうことなのかをスタッフと話し合うことになるでしょうね。そのことが、お互いの価値観を理解し合うきっかけになります」

 

利用者の障がいは一人ひとり異なるため「サボっている」という状況はその人によって違う。

「ちゃんとその人を理解しなければ指摘することはできないので、スタッフに求められることは高度だと思います。そして、スタッフは利用者を管理する立場ではなく対等に働く仲間なので、スタッフがサボっていれば当然減給になります」

 

好きなことをやる自由は、ただ与えられるだけのものではない。

日本福祉の事業所では、仕事と仲間にひたむきに向き合って、 “好き”を成立させようとしています。


ユニボのスタッフと笑顔で話す濱野さん

 

 

障がい者、過疎集落が互いに支え合うプロジェクト

 

日本福祉は、障がいを持つ方たちがなるべく多くの選択肢の中から「学ぶ、働く」を選べるように、さまざまな事業を展開してきました。

それにも関わらず、事業所が街にしかないことが、濱野さんはずっと気がかりでした。

 

「障がい者の方たちは、街の環境にストレスを強く感じることが多いです。例えば大声が出したい、走り回りたいと思っても、街ではその衝動が抑えこまれます。ストレスを感じにくい、自然豊かな田舎に拠点がほしいと思い続けてきました」

 

2021年、濱野さんの友人の紹介で、豊田市足助地区の山奥にある大多賀という過疎集落で活動をスタートできることに。

地元の人たちに教えてもらいながら、米づくりやしいたけ栽培などを互いの森プロジェクトと名付けて進めています。

高齢化と人口減少が進む大多賀は、日本福祉が担い手として来てくれるのがうれしい。街でストレスを抱えるという課題を持つ障がい者は、大多賀で活動できることがうれしい。

両者が互いの課題を補い合うという意味で、このプロジェクト名が付けられました。

「今年の田植えは、4反を総勢200名でやりました。みんな途中から泥んこ遊び(笑)こういう体験ができるだけでも価値があったかなと思っています」

 

地域全体で農福連携をやれる醍醐味

 

互いの森プロジェクトを担当している坂本亮仁(さかもとあきひと)さん橋本真由(はしもとまゆ)さんに、大多賀のマス釣り場で、お話を聞かせてもらいました。

 

「僕も発達障害があるので、そういう方たちの支援をするためにB型事業所で働いていました」と話すのは、坂本さん。

ある時、その職場で農福連携が始まり、研修などで勉強するうちに坂本さんは夢中になっていったといいます。

「農福連携は、農家の人手不足を障がい者が補って、その分の工賃をもらえるという双方に利益のある取組みです。その上、土に触ったり、日光を浴びて体を動かしたりすることが癒しになります。僕自身、それを実感しています」

「もっと本格的にやりたい」と思うようになった坂本さん。日本福祉の求人が目にとまりました。

「大多賀で立ち上げている農福連携のプロジェクトのスタッフ募集が出ていました。田んぼやしいたけ栽培など地域全域をフィールドにしている規模の大きさにすごく魅力を感じました」


しいたけ等の原木1700本をスタッフと利用者で山に運び入れたそうです

 

「面接で『まだ大多賀に事業所があるわけではないので、農業と福祉半々の働き方でやっていきましょう』という話になりました」

2023年7月に入社した坂本さんは、放課後等デイサービス・ジーニアスで児童指導員として働き、田んぼ作業が活発な時期には大多賀に通っています。

「児童支援は未経験でしたが、社会福祉士の資格を活かせると思ってジーニアスに決めました。発達障害、ダウン症、自閉症などの子たちが通う場所です。その子の希望や思いを聞くことを大切にして支援しています

「去年は大多賀で750キロの無農薬米が収穫できました。冬場はほとんど来ないですが、田植えや稲刈りの時期には週3回くらい大多賀に通っています。終日ではなく、夕方には子どもたちの送迎や活動支援に間に合うようにジーニアスに戻っています」

坂本さんは大多賀に通うようになって、田んぼの地主や、マス釣り場を管理するご夫婦など、地域の人たちと接する機会が増えました。

 

「互いの森プロジェクトの農福連携が、過疎になった大多賀を活性化させることにもつながっていくのだと思うと、更にやりがいを感じています」

坂本さんと橋本さんがお世話になっているマス釣り場のご夫婦

 

障がいではなくて、その人の特徴

 

「福祉に携わったことがなかったので、面接の時に『不安です』と伝えたら、『障がい持っている人も人だから、人付き合いができるなら大丈夫』といわれてやってみようと決めました」

そう話す橋本さんは、B型事業所のジビエレストランZOI(ゾイ)で働いていて、その合間に大多賀に通っています。

「ゾイは猪や鹿などの料理を提供するレストランで、ウェイターをしています。障がいのある方をパートナーと呼んでいて、その方たちと一緒に働きながら、就労支援をしています」

「大多賀には、半月に1回くらい来ています。ここでマスを仕入れて、飲み水用の湧き水を汲み、農作業をして、獣肉処理施設に寄ってお肉を購入するという一連のことをして、ゾイに帰ります」

入社する前、橋本さんは福島県の地域おこし協力隊として3年間、鳥獣被害対策の専門員をしていました。

「猿の行動調査などもやっていて、時には役場として猿を捕獲し、止め刺しして埋葬することもありました」

任期を終えて、故郷である愛知県に戻ってきた橋本さん。自然に関わる仕事がしたいと探していました。

「日本福祉のジビエレストランと植物のお店の求人が出ていたので面接を受けに行ったら、大多賀の話題になりました。鳥獣被害に悩んでいると聞いて前職の経験を話しました」

橋本さんは面接担当者に「大多賀での動きが活発になったらそちらに行きたい」と伝え、ゾイで働くことを決めました。

お店で一緒に働いている障がい者の方たちはどんな仕事をしているのでしょうか。

「人との関わりが嫌になっている方が多いので、前菜を盛り付けたり、お野菜を切ったり、洗濯や掃除をしたり、裏方の仕事をお任せしています」

「パートナーさんたちは発達障害やアスペルガーなどと診断されているけれど、同じ病名でも人によって全く違う特性が出ている。障がいではなくて、その人の特徴だと思って接しています

「今年、ゾイの一環で養蜂を始めました。ある日『巣箱の設置、できないかもしれない』と弱気になったときに、パートナーさんが『今日行こうよ』と引っぱってくれたことがありました。私のことを考えてくれているなあと感じます」

 

2025年春、日本福祉は大多賀で、都会の人も自然体験ができる施設をB型事業所としてオープンする予定です。

そのために、米づくり、原木しいたけ栽培、マス釣り場、ブルーベリー栽培、林業など互いの森プロジェクトで取り組んでいる事業の整備を進めています。

「現地にシェアハウスのような寮ができる予定なので、そこに入るつもりでいます。大多賀に来たい気持ちがめちゃくちゃあります」と橋本さんはその日を心待ちにしています。

大多賀でのプロジェクトに関わることを条件に、仕事の内容、勤務時間、働き方のスタイルなどは相談しながら決めることが可能だそう。

農業、福祉の経験は問われません。

自然の中で働いてみたい。
過疎集落の再生に、現場で関わりたい。
せっかく仕事をするのだから、やりがいのあることがしたい。
一緒に働く人たちと真正面から向き合って、困った時には相談しあえる信頼関係を作りたい。

そんな気持ちが湧いてきた方は、ぜひチャレンジしてみてください。

 


一般社団法人 日本福祉協議機構 募集要項

地域活性化プロジェクトマネージャー・事業スタートアップ

給与 
月給 24万円以上
月給:240,000円〜380,000円

〈内訳〉
基本給 月給:197,000円〜312,000円
固定残業手当 月額:43,000円〜68,000円

待遇・福利厚生
〈昇給〉
あり:年1回(4,000円/年)

〈賞与〉
あり:年2回(5月・12月)

〈退職金〉
あり:入社後6年目より適用

〈社会保険完備〉
健康保険:有
厚生年金:有
労災保険:有
雇用保険:有

〈有給休暇〉
入社6ヶ月経過後10日

〈福利厚生〉
・社内スマートフォン無償貸与
・制服無償貸与
・資格取得費用全額補助
・研修/講習受講費用全額負担
・特別休暇あり(慶弔休暇、バースデー休暇)

〈休日・休暇〉
年間115日(2023年度実績)

・完全週休二日制度(シフト制)
・年末年始(12/30~1/3)
・産前産後休暇
・育児休暇
・介護休暇

*採用スケジュールについては、応募者の方と相談しながら決めていきます。

募集説明会
募集についての説明会を実施します。
 ①対面説明会
日時:2024年7月15日(月)14:00~15:30
説明会についての詳細はこちらをご覧ください。

②オンライン説明会
日時:2024年7月19日(金)19:30~21:00
説明会についての詳細はこちらをご覧ください。

問い合わせ・応募する

 

きうらゆか

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1979年生まれ。2014年、夫のUターンに伴って豊田市山村地域・旭地区に移り住む。女性の山里暮らしを紹介した冊子「里co」ライター、おいでん・さんそんセン...

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撮影 永田 ゆか

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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