ポンコツ夫の無計画脱サラ移住日記|第5話 『田舎で起業します!』は試練のはじまり
前回の内容はコチラから↓
脱サラして無職になった僕が、何して稼いでいこうかとぼやいていたある日のこと。
先輩移住者の祖父江さんが、
「いいのあるよ」と紹介してくれたのが、「あいちの山里アントレワーク実践者」という制度でした。
祖父江さんも昨年経験していたそうです。
あまり深く考えずに応募した僕ですが、これが試練の始まりでした。
移住を考えていて、「どうせなら田舎を盛り上げるようなことをしたい!」と考えている人にとって少しでも参考になれば幸いです。
妻からの指示
移住するにあたって、妻から僕にある指示が出ていました。
それは、会社員に戻らないこと。
田舎で子育てや暮らしをしていくためには、街に住んでいるとき以上に夫婦が力を合わせることが重要です。
地域行事のお役や子供の学校行事など、人口が少ない分、やることが多いのが田舎の宿命。
だから時間を拘束される会社員ではなく、ある程度自分で融通をきかせられる仕事をしなさいというのが、条件になっていました。
と、言うのは簡単ですが、会社員にならないということは自分で事業を立ち上げるということ。
おいそれと、できる能力はもちろん僕にはありません。
祖父江さんが紹介してくれた「あいちの山里アントレワーク実践者」は、そんな悩める僕には、とてもありがたい制度だったんです。
どんな制度?
この制度は、過疎化が進む中山間地をなんとか盛り上げるために、新規事業を立ち上げようとしている人を育てるという目的で設けられた愛知県の制度です。
期間は7月から3月までの9ヶ月間(年によって違うみたい)、手取り月額約14万円を給料として支給してもらいながら、起業の準備を行えます。
さらに、経験豊富な起業家の方々がメンターとして付いてくれて、事業立ち上げに必要な知識や心構えなど、色々なアドバイスをもらえるような体制が整っています。
未経験者でも志しがあれば、起業家になれる夢のような制度なんです。
どんなテーマで応募するか
夢のような制度とはいえ、みなさんの税金で成り立っているので、何をやっても良いというわけではありません。
自分たちの地域がかかえている課題の解決につながることをテーマにしないといけません。
僕の場合は、ご近所の方のご好意でお借りした遊休農地の田んぼを使って、なにか出来ないかと考えました。
課題となっている耕作放棄地の減少につなげられるはずです。
とりあえず、現場を見てみよう。
自分の背丈ほどの雑草をかき分け、かき分け、農地の状態を確認。
すると、獣害柵が設置されていなかったため、イノシシの遊び場になっていたようで、でこぼこ。
さらに、鹿が毎日遊びに来るらしく、鹿のフンがたくさん転がっていて、一歩踏み出すたびにフンを踏んでしまうような場所でした。
米を植えたら、一瞬で持っていかれそうだったので、別の方法を考えることに。
いろいろと考えていたところ、インターネットの記事で、「ハーブは獣が嫌いな匂いを発するので、獣害よけになる」ということを知り、「これだ!」と思いました。
「耕作放棄地をハーブ農園に変えて、収穫したハーブを自分の手で加工、ハーブティーとして販売する」というテーマに決めました。(妻のアイディアですが)
と、テーマが決まったのはよいものの、ハーブについては夫婦とも全くの素人。
ハーブティーなどとは縁もなく、好きなお茶は烏龍茶とルイボスティー(ルイボスがハーブの一種ということを知るのはしばらくあとになります)。
カモミール?レモングラス?聞いたことはあるけど、何かはよくわかっていない。
そんなレベルからスタート。今考えると、けっこう無謀だったと思います。
まずは、応募しないと始まらないので、応募書類をまとめることに。
いざ応募!起業家への第一歩?
応募に必要な書類は、エントリーシートと事業計画書の2種類あります。
もちろん事業計画書など作ったことのない僕は、苦戦しながらなんとか書類をまとめて、応募しました。
採用人数は愛知県内の中山間地域から最大10名。
書類選考を無事通過して、10年前新卒入社以来、ド緊張の面接でしたが、なんとか採用してもらえることになりました。
これから一緒に頑張っていく仲間たちとの顔合わせ
今年の実践者となった僕たちの拠点となるのが、新城の湯谷温泉街にある「カフェ&ゲストハウスHoo!Hoo!」です。
普段はバックパッカーや観光客などが利用していますが、セミナーや定例の報告会などのときにはこちらを利用します。
目の前のウッドデッキからは、きれいな川が流れているのが見えます。
最高のロケーション、テンション爆上げです!
こんな素敵な場所が自分たちの拠点になると思うとウキウキの僕でしたが、他の実践者との初顔合わせレクリエーションで、いきなり挫折感を味わうことになります。
順番に自己紹介が進んでいくにつれて自分の顔が真っ青になっていくのを感じました。
というのも僕以外のみんなは、すでに自分の事業を持っている起業経験者の人たち。
一方僕は、事業なんてやったこともなければ、確定申告もよくわかっていない。フリマサイトで不用品が5,000円で売れて大喜びしているような人間です。
そんな僕がこんな猛者たちについて行けるだろうか。
不安を隠しながら振る舞うのに必死でした。
レクリエーションが終わるとすぐに合宿が始まります。
メンターの方々が事業計画の立て方、、収支計画や税務の考え方、マーケティングなど、とてもわかりやすく噛み砕いて指導してくれて、起業へ着実に歩むための道を示してくれます。
起業未経験の僕でも少しずつ道が開けていくのを感じます。
なんかやれそうな気がしてきました!(単純すぎる)
アントレワーク実践者の仲間たち
この制度を利用して、とても良かったのが、同じ志しで頑張っている仲間が、近くにいるということです。とても心の支えになります。
自分より経験豊富な人ばかりなので、メンターさんに相談しづらいことをいろいろと相談に乗ってもらったりしてます。
同世代なので、相談しやすい。
同じ悩みを持つ人と悩みを共有することもだいぶ心の支えになります。
本当に自分一人だけならおそらく乗り越えられませんでした。
終わったあとも協力しあっていけるような仲間になると思います。心強い!
みんなそれぞれの住んでいるところで面白いことをしている人たちなので、是非チェックしてみてください↓↓
https://spdesk.mikawayamazato.jp/nariwai/
壁にぶち当たる
合宿が終わると、自分の事業を進める自由な時間が十分に与えられます。
「よし、やるぞ!」と意気込んだ合宿明けの僕でしたが、
「あれ、何をするんだっけ?」
テーマは決まっているのに何から始めればいいのかわからない、不思議な感覚。
10年間サラリーマンとして生きてきた僕は、目の前の課題を解決する仕事ばかりで、「自由にやっていいよ」となると何をしていいのかわからなくなるということに気が付きました。
落ち着いて、冷静に
ハーブティーを作るんだからまずハーブを育てないと。
いや、その前に農地を整備しないとだめか。
と全然冷静になれていないまま、とりあえずジャングルと化している農地に草刈り機を入れていく。
外から見ているときはわからなかったけど、奥の方は茎の硬い笹が生えていて思うように草刈り作業も進まない。
丸3日かけても半分しか草刈りが終わっていないのを見て、絶望しました。
僕がやっている自然農という農法は、大型機械を使わずに手作業で行うことを基本としてますが、少し心が揺らぎました。
気がつけば2ヶ月が過ぎ、なかなか作業も進んでいないし、ゴールも見えていない。
このままではダメだと薄々感じながらも闇雲に農作業を進めているという感じ。
こんな感じで大丈夫なのか。不安いっぱいで肉体的にも精神的にも苦しい日々でした。
月に一度の進捗報告会
実践者は、月に一度メンターの方々に1ヶ月の成果と進捗を報告する日があります。
この日は1時間メンターの方々に個人相談ができるので、みんな悩みごとや今後進めていくことなどを相談します。
僕はと言うと、不安いっぱいで闇雲に進めてきた活動内容を報告。なんとも後ろめたい気持ちです。
すると、メンターさんから質問
「農作業を進めるのはいいけど、それはどこを目標にしているのか。」
僕「今借りている1000㎡の農地を頑張って3月までに整備します。」
メンターさん「それでどれくらいの収益を見込んでいる?」
僕「・・・」
闇雲にやっているので、わかりません。とはっきり言う度胸のない僕は
遠回しに、モジモジっと伝える。
メンターさん「自分のやりたいことがはっきりしていないと我々もアドバイスのしようがないんですよ。2週間以内にリサーチして事業計画書を練り直すように!」
僕「はい、わかりました(半泣)」
他の実践者の方たちは、計画を立てて、それに沿って進められているかどうか、今の進め方で問題はないかということを相談しているのに、僕だけはかなり低いレベルで、頭を抱えていました。
とにもかくにも、事業計画の見直し、というか0からやり直しをしないと。
事業計画の立て方は、最初の合宿のときに教わっているので、その資料を見返したり、図書館で本を読んだりして進めようとしますが、全く進まない。
僕が途方にくれていると、始終を把握しているプロデューサー的立場の三河の山里サポートデスク 松本さんから助け舟。
お休みの日にもかかわらず僕のために時間を取ってくれて、相談に乗ってくれることに。
途方にくれている僕を上手に導きながら事業計画に足りていない要素を一緒に洗い出してくれました。
ようやく進めていけそう。あとは自分が頑張らなければいけない範囲です。
足りていない要素をリサーチ。どう進めれば事業として成立するか、数値目標を立てます。
幸運なことに一緒に自然農を頑張っている仲間のつてもあって、ハーブ事業をやっている先駆者からとても参考になる情報をもらい、なんとか事業計画を立てることができました。
これでようやくスタートラインに立てた気分です。
なりわいネットワークの存在が背中を押してくれる
事業計画が立てられて、メンターさんとも前向きな相談ができるようになりましたが、進めているうちにいろいろな問題に直面します。
例えば法律上のことや行政手続きなどは、専門的な知識や経験がないと手も足も出ないこともあります。
もちろんメンターさんも頼りになる存在ですが、自分がやろうとしていることを全て解決できるわけではありません。
そんなときにもう一つ頼りになる存在が「なりわいネットワーク」です。
「あいちの山里アントレワーク実践者」は2022年度の僕たちが7期生で、約60人ほどの先輩方がいます。
それに加えて、地方を盛り上げようと奮闘している僕たち実践者の力になろうとしてくれている人や企業で構成されたコミュニティ、それが「なりわいネットワーク」です。
今現在で、100名を超えるコミュニティになっています。
それだけ大きなコミュニティなので、過去に自分と近い事業の立ち上げを経験している人や法律や強い専門知識を持っている人たちがたくさんいて、気軽に相談できるプラットフォームになっています。
また、色んな人たちがつながって自分たちの持ち味を活かしてコラボしたりして、新たな取り組みに発展したりもしています。
起業するのにこんなに心強いことはありません。
感謝
この「あいちの山里アントレワーク実践者」という制度は様々な面からサポートを受けられて本当に良い仕組みだと思いますので、愛知の山里で何かやりたい!と志しを持っている人は是非応募してみてください。
と、制度の素晴らしさをつづってきましたが、やっぱり一番の支えになってくれているのが妻の存在。
何度も切羽詰まった僕を文句言いながらも手伝ってくれたり、焦って変な方向に行きそうだったときも軌道修正してくれたりと
頭が上がりません。
一生ついていきます。できればもう少し優しくしてくれるとありがたいですが。
次回のコラムでは、この「あいちの山里アントレワーク実践者」で取り組んできたこと、どんな事業を立ち上げようとしているのか、その内容についてお伝えしたいと思います。
最終話はこちら↓
いとうゆうき
5,932 views1989年生まれ、豊田市出身。農学部を卒業後、施設園芸機器メーカーに就職。近代的な効率を求める農業よりも自然に寄り添った農業で生きていきたいと思い、「自然農...
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