人から人に受け継がれてきた味なんだ!花山小5年生が下山五平餅PR動画を作って学んだこと

インタビュー

「五平餅」をご存知だろうか?

東海地方山間地の郷土食で、独特の幅広串にご飯を平たく練り付け、炭火であぶったものに、ごまやしょうがなどを加えた甘味噌だれをぬって、さらに香ばしく焼き上げる…書いているだけでよだれがでそう!道の駅やイベントでは必ずお目にかかる。

 

豊田市下山地区花山小学校の児童が、「下山五平餅」をPRする動画を2020年3月に制作し、その動画が地域で放映されていると聞いて取材に向かった。

 

「見たら絶対に下山五平餅が食べたくなってしまう」というこの動画は、花山小の児童たちが地域に引き継がれてきた食について地域の方たちから学び、児童主体で作り上げた力作だ。動画は11分。下山五平餅の歴史やルーツ、地産地食の原材料の説明など、大人顔負けの充実した内容となっている。

 

この動画制作のエピソードを、当時の担任だった塚田奈緒子(つかだなおこ)先生に伺った。

 

撮影:永田ゆか
写真提供:塚田奈緒子先生

 

花山のよさってなに?

 

豊田市東部の中山間地にある旧東加茂郡下山村が、平成17年に豊田市と合併し、下山地区となった。

 

人口は4312人(2020年10月現在)、観光客が訪れる三河湖や山遊里などの観光施設があり、住民が美しい里山の景観を守ってきたが、市内の他の中山間地同様、少子高齢化が進む地域だ。花山小は下山地区でも子育て世帯が多い地域にある。

 

令和元年度の花山小の5年生16人が下山五平餅について学んだのは総合的な学習の時間。

 

塚田先生が「花山地区で何かひとつ財産あげるとしたら何?」と聞くと、子どもたちはみんな「人だ」と答えたのだそう。

 

「花山の人はみんな優しいって。例えば散歩しているおじさんとか、ユキっていう犬を連れているあのおばちゃん。多分、下校のタイミングに散歩して僕たちのことを見守ってくれてるんだ、いつも声をかけてくれるんだ、と言うんです」

 

「花山は大きな観光施設はないが、“人”という魅力があると思う」と子どもたち。

 

ではその花山の人たちから力を借りて、地域のことを勉強してみようとみんなで考え、下山五平餅がテーマに決まった。

 

先生は地域の人たち

 

豊田市内にも五平餅は各地域にあるが、下山五平餅は、昭和45年の大阪万博で「何か下山の目玉を」と作ったもので、足助や旭など市内の他の地域とは作られた経緯が違い、型や大きさ、値段や味付けの基本などが統一されているのが特徴だ。

 

「子どもたちは、幼い頃から五平餅=下山五平餅だと思って食べていたので、下山以外で五平餅を食べると、”なんか小さいなぁ”と思っていたようです。だから五平餅は東海地方の郷土食だという基本的なことも、下山五平餅は独自のものということも意外に知らないことがわかりました」と塚田先生。

 

そこからは、花山の方に力を貸してもらうことになった。最初に、下山五平餅を販売している食事処壱利岐へ行き、まずは実際に食べて楽しみ「下山の五平餅は大きさが決まってるんだよ」と教えてもらった。

 

花山のもうひとつのお店、五平餅屋あさぎりでも五平餅を買ってきて、「あ!ほんとだ似てるな」とか、味噌だれの味や串の色が少し違うといったことを学んだ。

その後、学校アドバイザーの浅見富士男(あさみふじお)さんにお願いし、小粒で粘りが強く五平餅に向く品種ミネアサヒの田植えを体験した。

浅見さんの田んぼは湧水で特別栽培米(有機)のすばらしい田んぼ。子どもたちは泥の感触や湧水の冷たさ、農作業の大変さを体感した。

 

もう一人の学校アドバイザーである妙楽寺住職の鈴木政彦(すずきまさひこ)さんもお招きした。鈴木さんは地域のことを歴史的に深く学ばれていることから、一般的な五平餅に関する知識や、下山地区の歴史と五平餅の結びつきについて教えてもらった。

鈴木さんの話のなかに、下山五平餅のモデルとなった「五合五平餅」というキーワードが出てきた。

 

50年程前は羽布地区にあったらしい。今となっては幻の五平餅だ。1合は150グラム。5合なら750グラム!
そんな大きな五平餅が本当にあったのか。子どもたちが「もっと知りたい!」と意欲的になっていたところ、なんと羽布自治区長の河合邦隆(かわいくにたか)さんの家に五合五平餅の串が残っていることがわかった。

 

お願いすると河合さんはさっそく学校に来て、五合五平餅について説明してくれることに。加えて、実際に一緒に作って再現する実習もしてくれることになった。

 

教えることでよみがえる思い出

 

河合さんに、子どもたちと「五合五平餅の復元」に取り組んだエピソードについて直接お話を伺うことができた。

 

「子どもは自分で作って自分で食べるとすごく興味がわいて楽しめるんだなと思った。味噌をほっぺたにつけたりしてね。あんなに喜ぶとは思わなかった。私も自分で五合五平餅を作ったのは初めてでした」

河合さんが幼い頃、秋に米の収穫が終わり、米びつに古米が残っていると、それを使い切るために五合五平餅を家族みんなで焼いた。年に1度か2度しかない特別な行事にしか食べることのできない味として、とても楽しみにしていたという。

 

「味噌は自家製。だからそれぞれの家で五平餅の味も違う。炭火こたつで焼いてね」

 

成長するにつれて、自宅で五平餅を作ることはなくなった。そんな河合さんにとって、花山小の子どもたちと五合五平餅を再現することは、大切な思い出がよみがえる貴重な経験だったという。

 

「地域で子どもたちに会うと『五平餅の先生だ!』と声をかけてくれるようになりました」うれしそうに教えてくれた。

 

授業に招いたある方は、豊かな自然を大切にし、共に生きてきた歴史と、その中での五平餅の位置付けをとても分かりやすく教えてくれた。

 

「下山には総山とよぶ共有林の山があります。頂上にはアキヤサン(秋葉神社)があって、中腹に水源となるおイナリさん(稲荷)がある。山の神様は新しい年が来ると頂上に降り立ち、春には水に姿を変えておイナリさんから流れ出し、その水で、村人は田んぼを作りました」

 

「稲を作るから、水源の神社をイネナリ=イナリ(稲荷)と呼ぶんだよ。秋に稲が実ると、山の神様に感謝するためにアキヤサンへ詣り、収穫したお米で作った御へいをお供えする。田んぼの仕事を終えた神無月の頃から、人々は山へ入り、必要な分の山の恵みを得ました。そしてまた春が来ると、田んぼで一生懸命働いて稲のお米をいただく。集落の人たちは、このサイクルで自然と幸をもたらす山の神様に感謝しながら、暮らしてきました。この繰り返しが山の講の風習として今も繰り返されています」

 

その方は、共有林で育てた杉の木で作った五平餅の串を、子どもたちに手渡してくれた。

 

熱が伝わる動画にしたい

 

「一生懸命やっている子どもたちに対して一生懸命に応えたいという地域の方たちの姿に感動しました」と塚田先生。

 

子どもたちは、この下山五平餅の学びを動画作品として残すことを考えた。

「豊田市から小学校にタブレットが支給され、市のICT(情報通信技術)支援員さんが撮影から編集まで指導してくれることもありチャレンジすることになりました」

 

動画は、「大きさについて」「人の優しさと地産地食」「店と味噌だれの材料」「五合五平餅」の4つの部分から成る。セリフ一言一句は、全て子どもたちが決めた。何度も原稿を書き直し、どうしたら伝わるか、何度も話し合った。

 

「お世話になった地域のみなさんの情熱が伝わるものにしたい」

その一心だった。

 

台本が仕上がった2020年2月29日。3月からいよいよ撮影をスタートする予定だった。ところが新型コロナウィルス感染拡大防止対策のために翌日から全校が休校になることが突然決まった。

 

「『どうする?今日、もうあと下校まで数時間しかないけど撮る?』と聞いたら『撮る!』って」

 

与えられた時間はたったの2時間だった。子どもたちは撮影を決行した。

 

五平餅で下山を伝えたい

 

子どもたちの願いが託された完成動画は、下山支所へ持ち込まれた。

動画を見た下山支所地域振興担当の市川真裕(いちかわまさひろ)さんはこんな感想を持った。

 

「下山五平餅のことは知っていましたが、観光のための商品だという認識でした。動画を観させてもらって、下山の歴史、下山らしさ、下山の個性が形になったものだと気が付きました」

ちょうどその頃、支所の保有する三河湖観光センターの未活用スペースを観光客への情報発信の場として使うという話が持ち上がっていた。

 

「動画を見れば、五平餅のことをきっかけに、地域のことを知ってもらえると思いました。三河湖観光センターで公開させてもらえないかと塚田先生にお願いしました」

 

「単なる観光商品ではない。下山の歴史と暮らしに根付いた食文化から生まれたのが下山五平餅である。子どもたちに刺激を受けて、支所としてもこの部分を押し出していこうと決めました」

 

市川さんは同僚の今村友幸(いまむらともゆき)さんと一緒に、下山五平餅に詳しい地域住民に聞き取りを行い、下山在住の絵本作家中村広子(なかむらひろこ)さんに、縦1メートル、横7メートルもある五平餅伝承パネルを制作してもらった。

2020年6月、リニューアルした三河湖観光センターが公開された。

「五平餅を販売しているお店から、〝映像を見て食べに来ました〟とお客さんが声をかけてくれることがあると聞いています」と市川さんは教えてくれた。

 

 

「地域の財産は人だ」という花山小の子どもたちのことばから始まった下山五平餅の学習。

 

五平餅のことを知りたいと願う子どもたちに大人たちが教えてくれたことは、歴史、幼い頃の思い出、大切な山の木から作った串のこと、そして自然の流れに逆らわずに生きてきた下山の暮らしについてだった。

 

経験、知識を惜しげもなく与えてくれた地域の人たち。下山五平餅を学んで見えてきたのは、子どもたちが宝だと思っている下山の「人」の姿だった。

 

大人になった子どもたちが下山五平餅を食べるとき、思い出すのではないだろうか、
熱を込めて教えてくれたその人たちの表情を。

 

三河湖観光センター
住所 豊田市羽布町鬼ノ平1-233
電話 0565-90-3510
HP   http://www.karen-shimoyama.jp/spot0_111.html

松本 真実

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北海道小樽市出身。ベルクマンの法則に則り身長173㎝。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。豊森なりわい塾事務局。目下の関心ごとは自給自足や自治...

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撮影 永田 ゆか

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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