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変わらずに、変わり続ける古民家【「喫茶室転々」マスターが語る暮らしとつながる商いのカタチ第5回】

コラム

こんにちは、足助・冷田地区の古民家カフェ「喫茶室 転々」の小柳卓巳(こやなぎたくみ)です。平日はITエンジニア、休日は雇われマスターとしてコーヒーを淹れたりしています。

 

本コラムでは、毎回、転々のメニューをご紹介させていただいて、そこにまつわるエピソードや、どういう考えのもとでつくりあげたのかお伝えできればと思います。

 

さて、今回ご紹介させていただくのは「古民家」です。

 
 
 
 
 
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またしても食べ物ではない!

と言うか、メニューじゃない!

しかも、僕が作ったものですらない!

 

けれど、転々の中心的存在であり、僕にたくさんの気づきを与えてくれる大切な「場」なので、ぜひ語らせていただければと。

 

本コラムの第1回で書かせていただいた通り、成り行きで偶然に使わせてもらえることになった空き家物件でした。冷田のどこにでもあるような家ですので、最初は僕自身その魅力にあまり気づいていませんでした。ただ、元々、田舎の風景やレトロなものが好きだったので、建物の雰囲気は気に入っていました。なので、似たような趣味の方だったり、いわゆる古民家カフェとか好きな方ならチラホラ来てくれるんじゃないかなあと、ヌルめの期待しか持っていませんでした。

 

ところが、開業前、せっせとお店づくりをしていると、骨組みのあちらこちらに歪みがあって、ずっと静かに佇んでいるように見えたこの家が、実は認識できないほどのゆっくりとした速度で変化していたんだなあと、約70年間の「営み」みたいなものを感じるようになりました(←「経年で痛んでいく」とは違う感覚です。伝われ~)。それと、作業中にお義父さんから聞いたのですが、いまカウンターがある場所が、昔は玄関から続く土間だったんですって。へぇ、時代に合わせて住む人がより暮らしやすいように大きく形を変えたということか。それを今度は自分の手(正確には自分10%+お義父さん90%)で直してちょっとでも長く使えるように、そして、お店として機能するようにリノベーションしていくことで、単なる「物件」から「自由を詰め込む空間」へと認識が変わっていきました。

 

恥ずかしながら、以前は「家」というモノは工業製品みたいなもので、工場で完璧に製造された部品をプラモデルのように組み上げて作られているのだと思っていました。住む人は「箱の中に収まる」のが基本で、残された余地はせいぜい家具を変えるとか壁紙を変えるくらいしかないと思っていました。そんな僕が、冷田に住んでDIYに目覚めたところまでは良いとして、まさかこうしてカウンターをつくるだなんて、よもや壁を立てる(=間取りを変える)だなんて想像もしていませんでした(繰り返しますが自分10%+お義父さん90%)。形あるものはいつか必ず壊れてしまうけれど、その時が来るまで手入れを重ねて、かつ、時代や使い方に合わせて空間そのものを再編集することで新しい価値が生まれるのかもしれないと思うようになりました。

 
 
 
 
 
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段々とお店の「ように」なっていく古民家ですが、どこまで何を整えたら完成するのか実はよく分かっていませんでした。なんせ飲食店で働いた経験なかったので。だから、思いつくことをどれだけ準備しても安心できず、開業目標を何度も先延ばししていました。けれど、これでは埒があかないと、「何が何でもこの日に開業する!!」と根拠なくエイヤ!とXデーを決めて、それでも結局、整った感のないまま見切りでオープンしちゃいました。イヤー、不安でした(笑)

 
 
 
 
 
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オープンしてからも飲食未経験の僕らですから、いろいろなことの正解が分からず本当に要領を得ないまま営業していました。メニュー表をころころ変えたり、モーニングをやってみたりやめてみたり、原価の計算のExcelがバグってて焦って価格改定してみたり…。頭の中にいつも「??」がたくさん浮かんでいました。いや、それは今もか(笑)

 

それでも、少しずつお客様が増えてきて、冷田の方だけでなく豊田市外の方や、たまに県外の方にも来ていただけるようになっていきました。これは本当に驚きでした。そりゃあ、僕ら自身が心地よいと思える空間で、僕ら自身が美味しい思えるものをお出ししているので、嬉しいのは当たり前ですが、だって、メニューは毎回違うし、営業日は不定だし少ないし(開業当初は月に2日間とか!)、なによりこの立地の悪さ。今でも驚いちゃいます。そうか、きっと、もっと素敵なところに行くついでで、たまたま近かったから来てくれたんですよね?まさかウチだけを目的には来ないですもんね。あ、いえいえ、ついででも全然良いんですよ!本当にありがとうございます!と、心の中で謎の謙遜、…いや、自虐をしながら感謝の意を唱えております。

 

そんな未だに整いきっていないお店ですが、よくお客様に建物そのものを褒めていただけます。例えば、柱を見て「これケヤキだね。立派!今じゃ手に入らんよ。」とか、梁を指して「捻じれをそのまま生かして組んであって、これはワザだわ。」とか、僕が知らなかったり気づいていなかったりすることを言っていただけます。

それから、お客様のご実家やお祖母ちゃんのお宅が似たような造りのお家で、「わあ、懐かしい感じ~」とか「お婆ちゃんちに来たみたい!」とか言っていただけます。ちゃんと元の住居としての古民家の雰囲気を残せていて、それを喜んでいただけて、さらに柱や梁などのパーツまで褒めて頂けることで、どんどん建物の魅力に気づかされていきました。その褒めていただいたことをもとに、そういう見方もあるのか!次はなにをやろう?と新しい「発想の種」にもなっています。逆にいうと、僕ら夫婦だけの発想では、割と型に収まったお店になっていたかもしれません。なので、勝手ながらお客様と一緒に転々を育てているという感覚を持っています。僕らの中にやりたいと思っていることはいろいろとありますが、実際この先どうなっていくのか分かりません。お客様も「転々の参加者」として捉えていて、どんなふうに育てていけるのかすごく楽しみです。

 

元々の単なる住居として存在していた古民家。営む人が変わって喫茶店が生まれ、訪れる人が変わって発想の種が生まれ、次々と予想外のことが起こっていく気がします。建てられて70年近くも経過するこの建物から今の時代の人たちにフィットする新しい発想が生まれるなんて不思議。きっと、お店だけでなく、僕ら自身もお客様から新しい価値観をいただくことで日々アップデートされているのだと思います。

 

「発想の転換」というと大げさですが、空き家を「住むもの」としてだけでなく「遊び場」としての視点を加えてみる。きっそ、そういう目線があると単なる壁がギャラリースペースに見えたり、使い道がなかった半端な古材がカフェトレーに見えたり、さらにそれを自分と違う特技や目線を持っている人に話したり見せたりしたら、もっと別のものになる可能性があると思うんです。

 

何か新しいことを始めたいときや課題に取り組むときに煮詰まってしまうことってよくありますよね。けれど、「変化のきっかけ」や「発想の種」は案外そこら中に転がっていて、それを見つけるための視点が足りていなかったり、必要な協力者にまだ出会えていないということがあると思います。

 

自分の中でまだ柔らかい状態だとなかなか一歩目が出せないですが、そんなときは「??」だらけの中オープンしたことや、「ダメだったら変えればいいし、やめてもいいじゃん」と半ば開き直りの精神で運営している日々を思い出すようにしています。雑すぎて誰にでもお勧めできるような良い方法ではないですが(笑)見切り発車で効率は悪いと思いますが、一歩目さえ出せれば、きっと何かが起こると信じています。

 

三歩進んで三歩下がる。

かもしれませんが、そしたら違う方を向いて一歩踏み出そう。

 

後ろ向きだったりして!(がびーん)

 

それではまた。

小柳卓巳

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1981年生まれ、やや瘦せ型のメガネの右利き。平凡な幼少期を経て平均的なITエンジニアをやりつつ、運とご縁に恵まれて妻とともに2019年に「喫茶室 転々」を...

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