安定って何だっけ?田舎で好きなことを仕事にする道を選んだ23歳の日々。

インタビュー

愛知県豊田市の北東部に位置し、岐阜県と長野県との県境にある稲武地区。森林が面積の9割を占める山あいの町で、中心部の標高は約500メートル。人口は約2,230人(2019年)うち、約半数が65歳以上だ。過疎化が進むこの地区で、週3日は工場勤め、2日はマウンテンバイクツアーガイドを仕事にする『3日2日』という働き方改革を進めているトヨタケ工業株式会社へ就職した23歳の遠藤颯(えんどう・はやて)さん。

えええ

トヨタケ工業株式会社が推進する新しい働き方のイメージ(Inabu Base projectホームページより拝借)

小学校生の頃から自転車で遊ぶことが好きで、『自転車は共に冒険する友だち』という少年時代を過ごしてきた。その自転車がつないでくれた仲間たちとの縁。  

好きなことを仕事にするまでの想いと、実際に仕事に着いてからの心境とは?

Photo:佐伯朋美

本当にやりたいことを問う日々

遠藤さんは、神奈川県川崎市出身で、高校卒業後は埼玉県内の大学に通っていた『街生まれ、街育ち』。大学進学は、明確に自分のやりたいことを見つけていたわけでもなく、周囲の雰囲気に流されて決めたところもあった。

大学の部活はツーリングを主体に活動する自転車部に入部。頻繁に部員とツーリングに出かけ、 時には1週間帰らないこともあったそうだ。コース選択やツーリング企画も担当し、自転車との時間をたっぷりと育んだ。

大学時代、部活で四国に行った時の写真(ご本人提供)

大学3年になり、就職活動がスタートした。

「情報学を専攻していたこともあり、就職は漠然とIT系に進むんだろうなという雰囲気に流されていたように思います。自分の好きなことを仕事にするのは、特別なスキルを持っていないと無理 だと思っていました。『これが好きだから、これを仕事にしよう』という考えとは結びつかなかったんです」

『趣味と仕事は別』、『好きなことでは食っていけない』。大人社会の中でも、たまに耳にする言葉が浮かんでくる。
 

「いくつかの企業を周り、IT企業から内々定を頂いたことで、正直自分の中でホッとでき、ようやく気持ちに余裕ができました。でも、そこへ就職することは、自分が心の底からにやりたいことではなく、本当にそれでいいのかなど自分に問いかける日々でした。一旦就職してしまうと、自分の性格上、周囲に流されて本意とは別に、敷かれたレールの上をそのまま走り続けていくだろうなあとも思っていました。

そんな時、就職活動や卒論制作の忙しい最中に、SNSで目にした INABU BASE PROJECT (以下、IBP)の『3日2日』の働き方提案を思い出したのです。内々定は頂いたものの、自分の中で就職活動が終わった感はなく、IBPに連絡を取り、イベントに参加させてもらいました」

 

人材としてではなく、仲間として受け入れてくれた

初めてINABU BASE PROJECTに参加したのは、2018年8月。東京から夜行バスで名古屋へ向かった。実際来てみると、『3日2日』の働き方が用意されていたわけではなく、それを近い将来、実現させるためにスタートして動いているということがわかった。

「あれ?始まっていないんだ、と最初は思いました(笑)。でも、新しいことが始まるんだということは実感できました。それだけでなく、自分も加わればそのメンバーとして作り出せるんだ、と 想像するとワクワクしました」

小学生の頃、『この川の先は本当に海になっているのだろうか?どんなふうになっているのだろ う?』と、自転車のペダルを漕ぎ進めていったときのように、このプロジェクトは、開拓精神を新 たに芽吹かせくれるものだった。

トヨタケ工業(株)でアルバイト中、シートの端材を使って作ったバッグ(ご本人提供)

「『3日2日』の働き方改革のために、社長の横田さんを中心に、自転車でつながっている仲間や 地元の人たちの協力で、すでにできていた0から1。その1に、いかにうまく乗っかって1から10 を作っていけるか。それが自分たちの役割で、やってみたいと思えたんです」

『3日2日』の働き方は、これからのスタンダードになり得るのではないか…。周りの雰囲気に流 されるのではなく、自分のやりたいことと合致した働き方に出会った気がした。  

「社長の横田さんも大学時代自転車部で、話が合いました。その晩は自転車のことやその日のイベ ントのこと、これからのIBPのことなど、色んなことを語り合いました。 就職試験のように、上司になるかもしれない人と部下になるかもしれない自分との対面ではなく、 もしかしたらこれからプロジェクトを一緒に進めていくことになる仲間として、熱意を聞いてくれ たということが自分にとって大きかったです。

社長と従業員という関係を越え、自転車でつながる仲間でもある遠藤さんと横田さん(右)

見ている方向や価値観が似ていたり、こういうの面白いよねというのが一緒だったり。目標が一致しているから、トレイル開拓のことでは仲間として対等であり、提案もしやすくなる。 資産としての人材ではなく、僕を仲間として受け入れてくれたような気がしました。 これなら面白いことができるのではないかと思えたんです」

 

自転車もミシンも「日々感覚を磨く」面白さがある

安定イメージのあるIT企業に内々定をもらっていたにもかかわらず、勢いとその時の直感で、稲武地区への移住、そしてトヨタケ工業(株)への就職を決めた遠藤さん。家族は、反対しませんでしたか?という問いに、意外にも 「驚いてはいました。でも親は、『好きなことをやればいいんじゃない」と言ってくれたんです」

父親は工場勤務で、母親はアパレル関係に勤務し、子ども服のパタンナー(型紙製作者)だった。 父は休日には、よくバイクや自転車をいじっていて、母は幼稚園のバッグなどを手作りしてくれる。 そんな環境の中で育った。

「家庭の中で自然と、物作りの楽しさを感じていたのだと思います。 3日の工場勤務でミシンを使うシート製作と、2日のツアーガイドをする働き方が、両親に教わっ た物づくりに対する姿勢や考え方とつながったような気がしました」
そのことも就職を決めた大きな要因になっていることを振り返った。好きな自転車に関われるという『3日2日』の『2日』がメインだったはずだが、意外にも工場に勤務する『3日』の業務の面白さも発見できた。

「ミシンって、自転車と似てるところがあるんです。自転車で走っているときと、ミシンで縫ってるときの目線の置き方だったり。縫製は、規格内のものは分業化も進んでいますし、ある程度練習すれば作れるのですが、きれいな縫製ができるかとなると難しい。感覚を磨いて、日々自分の中で アップデートしていくのが面白いです」

弟も器用で、家族の中では一番不器用だと思っていた自分が、開拓とものづくりの道へ歩み始めた。

一週間のうち、『3日2日』を除いた休日二日間はどう過ごしているのだろう。

「本を読んだり、近隣をサイクリングしたり、集落の行事にも徐々に参加したりするようになりました。サイクリングでは、田んぼがあって住宅があってという、田舎の風景の中に暮らしが垣間見られる景色が好き。暮らさないと見られない景色、通らない道。細かい部分まで目にすることができたり、感じられたり。そのツールとして自転車は最適!稲武は四季がはっきりしていて、日々違 う風景を見せてくれます。毎日が、ツーリングの途中のような感じです」

そして、稲武地区の山林や標高約1,300mの眺望に恵まれた場所にある開拓中のコースへも、休日を使って探索やメンテナンスに出かけることもある。

「マウンテンバイクのイベント開催で、参加者も多く成果が出たときには代休もあるけれど、まだまだボランティアのことが多いですね。でも、IBPのホームページで一緒に作業する人を募集し、 自転車好きな参加者や同じ雇用形態で入社した仲間たちと、知恵を出し合って共に作業する時間は、 休日とか仕事とかの線引きがなくなるぐらい楽しくって!参加者に楽しんでもらえれば、自分たち も楽しい。それがやりがいになっていくと思うんです。一緒に遊びながら」

好きなことを仕事にできる『2日』を叶えるために、会社勤務の『3日』も大切。それゆえに『5 日』全てが意味を持ち、楽しいにつながっていることこそが、『働き方改革』の本質のような気がした。

 

 

「安定」って何だろう?自分自身に問いかけて、一歩踏み出してみる

実際、自転車に関われる仕事を選んだが、好きなことを仕事にするのは難しいことだろうか?

「好きだから、3日2日の働き方が実現するよう、日々コツコツと積み上げていくこともモチベー ション高くやれます。
今思えば就職活動中は、人と比べて見劣りするように感じたり、自分のことを見失いがちでした。 IBPの働き方提案を知って行動できたのは、やっぱり自転車が好きだという自分の想いに気づいた から。同世代の人たちに言えるとしたら、好きなことを仕事にするために一歩踏み出すのは大変か もしれないけれど、踏み出してしまえば勢いでどうにかなっていくんじゃないかなということで す」

遠藤さんが、トヨタケ工業㈱に採用される過程で大きく評価されたことは『自ら行動したこと』 だった。

「この先、安定が絶対保障される訳ではない。それなら守りに入るよりも、攻めに転じた方が絶対に楽しい」と、自ら飛び込んだ決断は、幼い頃からの開拓精神そのもので、切り開いたからこそ目 の前に広がる新たなフィールドをプレゼントしてくれた。 一見、安定とは反対方向の道を選択したように思えたが、手に入れたのは、結果、精神も生活も共 に充実した『安定』と、『開拓を共にする仲間』だったのではないか。

「稲武にきて本当に良かったと思っています」と飾らず、今の気持ちをクリアに言葉にしてくれた。

遠藤颯(えんどう・はやて)1996年生まれ 神奈川県川崎市出身。INABU BASE PROJECT、Iターン新卒一号として稲武で新たな働き方を実践している。小学生の時に買ってもらったクロスバイクでツーリング、カスタムをし始めたのがきっかけで自転車にハマる。高校では通学の足として自転車を組み上げ、泊りがけのツー リングへも行った。大学では自転車部に所属。ツーリングを活動の基軸に、レースにも出場。自転車で遊ぶことの裾野を広げていき、稲武でマウンテンバイクと出会う。

 

 
 
 
遠藤さんが活動するINABU BASE Projectの最新情報は、公式ホームページ でチェックしてください。活動の情報はインスタグラム@inabu_base_projectでも随時更新されています。
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オクダキヨミ

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山口県光市生まれの広島育ち。 ヒロシマから長野県を経て、豊田市へ2010年に移住。 生活のベースを山に置き、生産・循環的暮らしを楽しみながら、たまには都会に...

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