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ぬくもりの里・神谷支所長に聞く【コロナ、みんなの現時点#5】被災地での学びも生かし正しく恐れる

インタビュー

愛知県に緊急事態宣言が出たのが2020年4月10日。豊田市での感染者数は、8月18日には160人を超えていた。その後も、緊急宣言が発令され、解除されるなどコロナウィルスに影響を受けた状況・受け止め方は刻一刻と変わっている。だからこそ時間的流れのなかでの今、【現時点】を記録しておきたい。豊田市で暮らし、働くみなさんにお話しを伺いました。

神谷洋美(かみや・ひろみ)生まれも育ちも旭地区。平成10年に旭町社協の非常勤ヘルパーとして勤務。平成12年より正規職員。2年前より社協旭支所の支所長となり、豊田市池島町にある「老人福祉センターぬくもりの里」を切り盛りしている。愛知県と全国ヘルパー協議会の会長を務める。

 

お仕事の内容を教えてください。

現在は社会福祉協議会の旭支所長として、合併前の旭町のイメージを大切にしながら、デイサービスなど介護支援事業やヘルパーステーションの管理者をしています。幸いにも転勤なしで20年こちらで働いています。

 

支所長になった時に幼い頃から私を知ってくれる人たちがとても喜んでくれました。職員もほぼ地域の人たちです。県と全国のホームヘルパー協議会の会長を兼任しています。厚生労働省にも行きますし色々な取材も受ける立場なので、現場のヘルパーの意見をしっかり届けようと思っています。

 

私たちが目指している自立支援って、手助けすることで利用者さんが「何かやりたい」っていう気持ちになって、それを応援することだって経験を重ねてきて心から言えます。何でも自分でやれることがいいんじゃない。そして認知症が進む中で、今までできていたことができなくなる悔しさを、利用者さんは家族にぶつけることもあります。気持ちを支えることの大切さを感じています。

 

全員で支えあい、やれることをやる

―4月に緊急事態宣言が発令された当時、現場では何が起こっていましたか?

当時、利用者さんが160人くらい。入浴介助や食事介助が必要な人にとって、ライフラインの一つなので止めるわけにはいきません。感染症対策をしっかりやっているので安心して利用してほしいこと、来るか来ないかは本人とご家族の判断にお任せしますと連絡しました。しかし元気な方や地域の方が来るデイサービスの利用者は、ゼロの日もありました。

 

また、ぬくもりの里の貸出会議室や地域の公共施設の利用ができなくなったときは、そこを使用していた元気組(比較的元気な人)のデイサービスは休みになりました。代わりに職員が自宅訪問をして、脳トレや体操の宿題を渡しに行って生活の様子を確認しました。

 

緊急事態宣言が延長になったとき、あと一か月元気組のデイサービスをやめたら、利用者さんたちの介護予防にならないね、と職員たちと話し合い、ぬくもりの里の利用できる部屋で行いました。中止することは簡単だけど、工夫してやれることをしようとデイサービスの行事も含めてコロナ対策をして、何とか行いました。

 

介護職員が精神的に追い詰められた時期もありました。経理担当の職員の子が、みんなが不安がるのを助けたいと「介護職での新型コロナの基礎知識」といった資料を作ってくれました。濃厚接触者の定義ややるべきことなどを丁寧に研修して、介護職だけでなく職員全員で支え合っています。

 

いかにきちんと説明できるか


新型コロナ対策として、始めたことや気を付けていることはありますか。

毎日の職員の体調管理は、表にして見える化しました。ぬくもりの里の館内の消毒は今までも行ってきましたが、回数を増やして徹底しました。利用者のみなさんは手洗いが苦手なので手指消毒を、送迎車に乗る前、ぬくもりの里の館内に入る前、帰りももう一回、と工夫しました。「ウイルスを持ち込まない、持ち出さない」を徹底しています。

 

国や市から出されるコロナ関連の情報を利用者に分かりやすくお便りにしたり、地域やお世話になっている方たちにも状況説明を丁寧にしています。自分がヘルパー協会の会長なので、正式な情報と知識が入るし、厚労省に聞くこともできる。周囲から色んなご意見をもらいますけど、その際にちゃんと説明ができるかが重要。自分たちが普段やっていることへの自負を持って仕事をしています。

 

そして、夏が始まる時期は熱中症や尿路感染が原因で発熱が増えます。それぞれの生活様式を把握しているので、「熱中症かな」とか「尿路感染症の再発だね」とか推測して対応します。熱中症はしっかり水分を入れると熱が下がってきます。尿路感染だと病院に行きますけど、今は熱があると診てくれない場合があるので、暮らしぶりや今の体調を伝えて、早く受け入れてもらえるようにします。もちろん地元の病院は普段から連携がとれていますけど。

 

いろいろな現場で、消毒などの負担が増えて人手不足だと聞きますが。

「できない」、「忙しい」で終わらないで、できる方法を考えていく。みんな日頃からすごいアイディアを持って仕事しているので、意見を共有するためにミーティングを繰り返しやっています。あと、介護は利用者さんの特性を理解できるかで全然違うと思う。利用者さんのできる力と手を貸すところがはっきり分かっていれば、必要なことに手を割ける。しっかり見て気が付ける介護職を一生懸命育てていきたいです。

 

介護は「まちづくり」

介護のお仕事は離職率が高いと聞きます。

ここは割と離職率が低いです。職員もほとんど地域の人なので、「支え上手・支えられ上手になろう」って言っています。私たちは介護を通して「まちづくり」をしているんだって。確かに介護職は大変って思うけど、やっぱり利用者さんの笑顔でがんばれる。今年度も百歳の方がお一人いて、お誕生日会でくす玉割りをしました。来年も3名控えています。

 

24時間介護が必要となったら過疎地の旭では暮らせないのが事実だから、「そうはならない」とふんばる意識を利用者さんたちは持ってみえる。そこはやっぱり支えていくよね。

 

被災地支援で学んだこと

熊本や東日本などの被災地支援を経験して、その時に学んだ事がコロナ禍で活かされています。物がない不安が一番。災害時は洗濯ができない前提で、予防着など使い捨てができるものを毎年予算を付けて箱買いしておいたから、今回防護服が売り切れても困りませんでした。こういったことは施設の管理者が意識していないと備えるのが難しい。本当に大災害が起きたら、使い捨てのものを使わないと今度自分たちが感染源になってしまいます。

 

ある時被災地で、高校生の子が海から救助されて体育館に来て、ここは安心するって笑顔で話をしていたけれど、外では声が出なくてと言っていた。よくよく話を聞くと、妹の手を放しちゃって行方不明だということでした。ヘリコプターで救助されたお年寄りも、入れ歯を置いてきちゃってうまく食事が取れないと話してくれました。

 

みなさん色々な想いを胸にしまい避難していました。また、ある外国人の方はリアルに被災地の様子をマイビデオで撮ってストレートに見せてくれていました。その中に自分の家が映っていて、グチャグチャだとしても、地元の人たちはよく見せてくれたと言っていました。大変な状況でも、人は事実が知りたいんだと本当に勉強になりました。

 

つながり続ける。正しく恐れる。

―私たちは今回のコロナ禍から何を学んでいけるのでしょうか

 人間はずっと感染症と戦ってきましたよね。今のコロナ禍もきっと何年か先には乗り越えたことが自負になっていると思う。ワクチンが開発されたから良しじゃなくて、今自分たちがやっていることがきっと次の感染予防にもなっていく。振り返った時に「ああやって頑張ったよね、こんなことも学べたよね」って、一つずつ経験値が増えていくと自分の人生が豊かになっていくだろうなと思います。

 

人と人のつながり、利用者さんやご家族、地域の人はもちろん、ぬくもりの里の職員とつながり続けることの大切さを実感しています。コロナに対しては、「正しく恐れる」こと、「誰かを守るには、自分も誰かに守られていないといけない(できない)」ことが大事です。安心安全に生活支援を続けていけるよう、みんなで頑張っていきたいです。

 

「コロナ、みんなの現時点」これまでの記事はこちら↓

小黒 あつこ

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豊田市生まれ、矢作川の川岸で育つ。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。 重症アトピー持ちの長女の出産を機に、自然に生きるとは何かと向き合う。 ...

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