いつもリスペクトと感謝を胸に。野菜も人との縁も育てる秋山さんの心情に迫る

インタビュー

田舎への移住を考えたとき、わくわくする気持ちと同時に、地元との関わり方に不安を持つのではないだろうか。新しい環境の中でゼロから築き上げる人間関係。うまくやっていくには、どうしたらいいだろう。

「自分のことを地域の人たちに知ってもらいたいんです」

豊田市旭地区伊熊町に住む秋山譲さんは、柔らかな表情でそう話す。豊田市の中心部からおよそ40分。車で小高い山をいくつも越え、農道を走り、田んぼや畑の広がる風景を横目に、メイン道路から少し奥まったところに秋山さんの家はある。

移り住んで5年。農園を営む秋山さんの日々は、家と畑の往復だけではない。地域のイベントでのバンド演奏、夏休みのラジオ体操、ヤギの飼育など仲間と企画する数々のプロジェクト。ドレッドヘアをなびかせ、オレンジ色の中古車の軽バンで、にこやかに地域を飛び回る。移住者どうしの関係だけでなく、地元住民とのつながり作りを大切に考える秋山さん。自ら行動して、楽しみを作り出す。そのモチベーションはどこから来ているのか、地域にどんな影響を与えているのか、お話を伺った。

photo:佐伯朋美

 

感謝の気持ちを胸に、農園を営む日々

取材当日、秋山さんの畑は清々しい朝の空気で満たされていた。

「採れたての野菜は本当にみずみずしいですよ、収穫ついでの僕の朝食です」と、肉厚のピーマンを美味しそうにかじる。そうかと思えば忙しそうに、にんじんの間引きをしたり、大根の様子を見たり、畑から養分を得たように生き生きと動き回る。

「ここの畑は、山のさらっとした土なので、落花生に合っていて植えっぱなしでも大丈夫なんです。うまくできているかな」

今シーズン初めての収穫。根元の土を丁寧に掘っていくと、たくさんの実が次々と現れ、顔がほころぶ。

秋山さんは豊田市伊熊町で妻の美奈さん、5歳と0歳6ヶ月になる幼い娘さんと4人暮らし。ターラ自然農園を営み、野菜の販売で生計を立てている。3~4反を耕作し、2019年現在、月に80箱ほどの季節のおまかせ野菜セットを顧客に届ける。野菜に添えられているのは、こんな文面の手紙だ。

この季節は寒暖の差が大きくなり、野菜たちも寒さに耐えるためエネルギーを蓄え始める時期です。同じ野菜でも味の変化が少しずつみられます。どうぞいただいてください。

毎回、秋山さんが考え、妻の美奈さんが清書する。

「お客さんは、販売する相手というだけではありません。都合上、野菜を作れない人。だから僕が育てる野菜とその背景にある生活をシェアする仲間でもあります。食べる人に畑の様子、季節の移り変わりが伝わるようにと書いています」

雨の日も、晴れの日も、自然が与えてくれる環境に感謝し、できた野菜に感謝し、日々に感謝する。取材中、秋山さんからは「授かる」、「いただく」という言葉が何度も出てきた。自然を敬い、感謝を忘れない。はにかむような笑顔に、温かな人柄が滲み出ている。

「自然豊かな田舎で暮らしたいと思っていました。暮らしを成り立たせていくために選んだのが農業です。20代後半から自然農の勉強を始め、こちらに移住してからも奈良県や岐阜の恵那市にある自然農塾に通っていました。ターラ農園では、川口由一さんが始めた自然農を基本に自分流にやっています。自然農の基本は、草や虫を敵としない、耕さない、肥料や化学肥料を使用しない、畑に持ち込まないことを基本としていて、自然界は少しの欠点もなく完全であるという考えを大事にしています。

僕は地域の環境、気候、田畑の状態などを観察しながら、必要があれば時に耕し、草を取り、虫を殺し、施しが必要な場合は油粕や米ぬかなどの肥料をやっています」

名古屋市出身の秋山さんは、アクセサリー販売、インドや東南アジアへの旅行、海外でお寺のボランティア、障がい者施設での勤務などさまざまな経験をしてきた。世界の広さ、価値観の多様さ、仏教の考え方に出会い、今のターラ自然農園がある。

 

「土地を守る」現実の厳しさを知り

芽生えた想い

 

実家があり、野菜を配達する顧客が増やせそうな名古屋市へのアクセスの良さ。田舎への移住を実行に移そうとした時、候補の一つに挙がったのは、豊田市の山村部だった。当時、旭地区に移り住んでいた友人から伊熊町に空き家があることを聞いた。

「緑色の大きな屋根のある古民家。ターラ菩薩をイメージさせるようなこの家が気に入りました。家主さんに住んでみたいと話したところ歓迎されました。そのまま入居できるかと思ったのですが、地元としては市が運営する空き家情報バンクを通じて住んでもらったほうが安心だということでした。

家主さんが空き家を登録した後、正式に申込をしました。他にも3件申込があり、もしダメならそれも縁だと心に決めて地域面談を受けました。面談では自然農で農業をやっていきたいと説明しました。慣行農法とは違うので、地元の人にしっかり理解してもらった上で、心おきなく自然農をしたいと思っていました」

ターラ菩薩の緑色を思い起こさせる屋根の色に縁を感じた

結果、秋山さん一家の入居が決まった。家主さんと地元住民は、「土地を守ってもらいたい、不耕作地をなくしたい」強い気持ちがあり、申込者の中でただ一人農業を志していた秋山さんに期待がかかった。

移住して最初の1年は家の修理に費やした。床は全部腐っていたし、屋根はボロボロで雨漏りしていた。次の年からは開墾を始めたが、土地の特徴がなかなかつかめず、野菜を育てる難しさに直面。この土地を引き継いできた先人たちに想いを馳せた。

「地元の人たちを尊敬しますよ、厳しい環境のなかでも、何百年も先祖代々の土地を受け継いできているなんて」

日々、田畑に立つことを重ねていくうちにこんな想いが胸を過るようになる。

「よそから僕のようなわけもわからん若者が来て暮らし始めるのは、地域の人にとっては少なからず戸惑いはあると思う。だから自分がどんな人物か知ってもらうため、 参加できること、やれることを迷わずやっています」

夏休みに子どもたちが参加できる早朝ラジオ体操がないことを知りクラブを作った。地域の大人も参加し、交流の場になった。

同じ町内に移住してきた女性が立ち上げた「里絵会」。ガレージに絵を描き楽しむこのプロジェクトに秋山さんも参加している。

 

僕らを、知ってもらいたい

 

2019年11月のある日、秋山さんは旭地区の体育館の舞台に立っていた。

「地元で年1回開催されている“あさひまつり”という地域の文化祭のようなイベントに、去年友人に誘われて初めて舞台に上がったんです。その時、地元の人が気合を入れてステージで地歌舞伎なんかやっててね。投げ銭なんかもあって。昔ながらの楽しみが残っているんだなと感動しました。また舞台に立ってみたいと思って。こういう移住者がいて楽しく暮らしています、ということが伝わればいいなと思って出演の申込をしました」

長年趣味でやっているインドのフルート“バンスリー”を吹こう。楽器ができる友人に声をかけた。ボーカル、ギター、ベース、パーカッションができる仲間が集まり、バンド『美しき緑の旭』が結成した。

「始めのうちは地元の小さいお祭りのために結成して出ることに消極的な友人もいました。でも、地元の人たちの前で移住者が演奏することに意味があると熱く説明したらわかってくれたみたいで、練習を始めることができました」

当日発表したのは、ジョン・レノンの曲『イマジン』。途中、英語の歌詞を日本語に変えた。

夢見てみようよ 未来の旭を

緑あふれる 平和な旭を

みんながそう思えば 簡単なこと

「演奏が終わると、温かい拍手をもらうことができました。泣きそうになったよ、とメンバーに声をかけてくれた方もいたようで、嬉しいです」

 

地域の一員として

新しい未来をつくる

 

秋山さんのご近所の方から、こんな話を聞いた。

「伊熊町は秋山さんを含めた移住者の受け入れについて、当初不安がありました。20年前に移住した家族がいましたが、地域との付き合い方、田舎での暮らし方になじめず結局出て行ってしまいました。その時のことがあったので、新たに移住者を迎え入れる時、受け入れるか否かで意見が半々に分かれました」

移り住んで5年。秋山さんの姿は、地元の人たちにどう映っているのだろう?

毎年開催される伊熊の秋祭り。秋山さんはお囃子の笛を任されている。お囃子は祭りの時を知らせる大事なサインだ。祭りの始まる前、宮入りの時、神事の後など決められたタイミングに決まった曲を演奏する。秋山さんは定期的な集まりに参加して笛の練習に励んでいる。

それから狩猟の資格も取得した。後継ぎがいない中、声がかかったからだ。部落に設置してある10箇所の檻に餌を置いたり、獣が檻に捕獲されたときに処理をしたりする。地元のお爺さんと2人で役を担っている。

 

秋山さんは、「正直、5年という短い期間では私たち家族を受け入れてくれているかどうかはよくわかりません」と謙遜する。

しかし、例え地元の人からの具体的な声掛けは無かったとしても、諸々の大事な担い手として秋山さんが必要とされていることは明らかだ。

新しい環境に身を置き、ゼロからスタートしてきた。自分ができそうなことは進んでしよう、地域の事を知りたい、自分のことも知ってもらいたいと想う秋山さんの謙虚な姿勢は、じわじわと周りの人たちの気持ちに影響を与えているように感じられる。移住者も地元住民も、肩書を超え、お互いに知り合うことの大切さを教えてくれているようだ。

その姿は、伊熊町そして旭地区の新しい未来を予感させる。まるで血のつながりを超えた家族のような関係のある未来を。

秋山譲(あきやま・じょう)1978年名古屋市生まれ。アクセサリー販売、インドや東南アジアへの旅行、 海外でお寺のボランティア、障がい者施設での勤務などを経験した後、農を志す。2015年に豊田市旭地区へ移住。ターラ自然農園を営み、野菜を育てる生活そのものをシェアする気持ちで販売を行っている。

writer

庄司美穂

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愛知県豊田市在住。1998年野生生物学を学ぶためにタンザニアのムエカ大学留学。卒業後、NPO法人中部リサイクル運動市民の会で環境教育部スタッフなどを従事。ほ...

プロフィール

きうらゆか

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1979年生まれ。とよたとつながるローカルメディア縁側編集長。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。2014年、名古屋市から豊田市旭地区に拠点を...

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