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スプーン、シーソー、ラグビーボールも?森林組合職員・山田さんが木を使って何でも作る理由

インタビュー

「木でこういうものを作ってほしい」。具体的な注文があれば、正確に作る。お客さんの要望が漠然としていても、どんなものが最適なのか考え、設計図を描き、形にする。ウッドデッキ、ベンチ、カウンター、バッチ、ジャングルジム、おもちゃ、消毒スタンド、パーテーション…。年間60件以上の注文を受ける。人気の木工作家?それとも大工さん?そうではない。山田政和さんは、豊田森林組合の職員だ。

豊田森林組合とはどんな団体なのか。その前にまずは豊田市の森についてお伝えしたい。豊田は2005年4月に周辺6市町村と合併して、市の面積の68%が森林という緑豊かな市になった。森林のうち、半分以上は人が手で植えたスギやヒノキの森。そのまま放置しておくと、密になり過ぎて、真っ暗な森になってしまう。太陽の光が地上部に届かずに、地面を覆う他の植物が生えなくなる。地面がむき出しになることで、水資源を蓄えておく力が弱まる。すると土砂くずれなどの災害が起きやすくなってしまう。

そこで必要になるのが、間伐と呼ばれる伐採作業だ。豊田市には、森林所有者が約8,300人加入する豊田森林組合があり、健全な森を維持するために間伐作業など山の手入れに関することを行なっている。

豊田森林組合のなかで、製材機を使い丸太から材料を切り出すことのできるたった一人の職員、そして熟練した木工の技術を持つのが山田さんだ。

熱心に取り組むから、一つの仕事が次の仕事につながる。地域産木材で建てた家に暮らし、プライベートの時間には自然の中で思い切り遊び、楽しむ。ただの仕事としてではなく、ライフワークとして木、そして自然に向き合っているように見える山田さんに会いに行った。

仕事の8割は土木資材の手配

 

紅葉で有名な香嵐渓から車で5分ほどの場所にある豊田森林組合の本所で待ち合わせた。現れた山田さんは「ちょっと移動して、作業場でお話ししても良いですか?ついてきてください」と再び車に乗り込む。本所とは、道をはさんで反対側に走り出して1分。たくさんの丸太が山のように積まれている土場の一番奥に、山田さんの作業場があった。

作業場の外に、同じ長さに切り揃えられた木材が整然と積み重ねてある。

「土砂災害の被害を減らすための砂防ダムに使われる材料です。これらを手配するのがメインの仕事です」と山田さん。

山田さんの仕事は、木工品を作ることだけだと思い込んでいたが、そうではないと聞いて少し驚いた。総務加工担当として、業務時間の8割は土木資材の材料手配と加工の仕事をしているという。豊田市内のほかにも、犬山市、豊橋市、豊根村などの建設会社から注文を受けて年間600立法メートルの丸太を土木資材にして販売している。

残り2割の時間で取り組んでいるのが、木工品の製作や、木材利用を広めるための仕事だ。ちょうど完成間近だという木製のカートを作業場の奥から持ってきて見せてくれた。

「三重県のカーディーラーから依頼されました。スムーズに走るように工夫してあるんですよ」

乗らせてもらうと、確かにスイスイ走って楽しい気持ちになる。子どもたちはきっと喜ぶだろう。

 

とにかく現場で覚えてきた

 

山田さんはどういう経緯で今に至ったのだろうか。

「僕は子どもの頃から自然が大好きで、野山を駆け回って遊んでいました。高校卒業後、旧小原村森林組合で働いていた叔父から声をかけられたことがきっかけで、森林組合に就職することになりました。体力には自信がありましたし、木登りなどもしていたので、やっていけるだろうという気持ちで入りました」

働き始めてみると、その面白さに夢中になったという。

「いろいろやらせてもらえますから、楽しかったですよ。今だったら、安全教育の資格や、重機の操縦資格などを取得してからじゃないと木は切れないですが、当時は入ってすぐにチェーンソーを持たされて『切ってみろ』と言われました」

「師匠がとても良い方でした。安全に関することはすごく厳しい。木を切る仕事は、些細な失敗が死亡事故につながります。師匠は、実際にそのような事故を目の当たりにしていたので、本当に厳しく教えられました。でも、きちんと仕事ができれば優しく褒めてくれました」

製材機の使い方も旧小原村森林組合で覚えた。山主が自分の山の木を使って家を建てたいという注文があった時には、大工さんから指示をもらって丸太から柱などの材を切り出した。

製材機を操作する山田さん

自分の手を動かして木工品を作るようになったのは、「もったいない」という気持ちからだった。

「切り置き間伐といって、伐採した木を山から出さずにそこに置いたままにするやり方があるのですが、その木がもったいないと思うようになりました。『捨てるならください』と交渉して山主さんに許可をもらいました。その場でチェーンソーを使って板にして持って帰りました。看板を作ったり、珍しい樹木だったら輪切りにしたり。今やっていることはそれの延長線上にありますね」

 

厳しくても自然相手の仕事に戻った

 

森林組合での仕事は自然が相手なだけに過酷で体力が必要。時には命がけの作業をしなければならないこともある。「それが受け入れられる人でないと続かない」と言う山田さん自身、旧小原村森林組合からもらう給料が過酷な仕事内容に見合っていないと感じ、退職を選んだ経験がある。

「まだ若かったので、他の仕事に就いている友人の給料が羨ましく思えてしまったんですね。でも、いざ無職になってみると、どこか面接を受けてみようと思っても、どの会社も全て同じように見えて結局どこも受けませんでした」

 

慣れた仕事への安心感。以前はなかった時間外手当ももらえる。そして経験者を急募していて誘われたこともあり、東広瀬町の森林組合に入りなおした。2005年、豊田市が周辺6市町村と合併したことを受け、豊田森林組合へ統合した。2010年に現在の職場である本所へ異動になったことで、木材加工一筋の仕事をするようになった。

 

「加工担当に配属になった時には、木材加工ができる上司が何人かいましたが、皆さん退職されたので、私しかできる人がいないという状況になってしまいました」

 

市内市外問わず広めてきた地域材の良さ

 

山田さんが関わってきた代表的な活動を見てみたい。

2010年からは名古屋大学農学部が発足した「都市の木質化プロジェクト」に参加している。

「町の人や企業、建築を学ぶ学生を山へ案内し、森林施業の現場を見てもらいました。特に学生のみなさんには、一緒に活動するなかで地域の樹種について伝えることを意識しています。地域の材がもっと使われるためには、設計士さんが建築の仕様書にスギやヒノキと書いてくれないといけませんから」

2019年には、愛知県森林公園で行われた第45回全国植樹祭の会場内設計を「都市の木質化チーム」が担い、山田さんは学生や設計士たちと一緒に入場ゲート、ベンチ、テーブルなどを作った。

名古屋市長者町が新しいまちの将来像を模索するために立ち上げた「錦2丁目まちづくり協議会」との関わりも深い。あいちトリエンナーレ2013では、地元の人たちと「おもてなしベンチ」を製作。翌年には、長者町繊維街の通りの歩道をウッドデッキで拡張するプロジェクトに協力した。

もちろん豊田市でも、市民が木に触れることができる機会をたくさん作ってきた。2015年には豊田市駅前に「OIDENTITY」というロゴをモチーフにした木製オブジェの製作手伝い、「第1回WE LOVEとよたフェスタ」というイベントでは木製遊具に触れてもらうスペースを用意した。2019年のW杯の時には、豊田市駅前に大きな木製ラグビーボールを展示して選手への応援メッセージを書いてもらえるようにした。

 

どんな依頼にも全力で応えたい

 

2020年12月、愛知県庁を通じて東京のデザイナーからJR名古屋高島屋内の店舗で使用するディスプレイ台の製作依頼があった。図面を見てみると、柱材を貼り合わせて直径45センチの円柱にするというデザインだった。

「それまでにやったことのない加工方法だけれど、色々な機械を使用すればできるだろう、とお請けしました」

 

未経験の加工依頼でも、やれるように工夫する。依頼内容がはっきりしていたら、さらに良いものになるようにアイデアを練って提案する。その背景には、もっと地域の木材を知ってほしいという強い想いがある。

 

「森林組合が山主さんと一緒に森林を管理して、山から丸太を伐り出すだけの団体になると、山主さん以外とは関わりがなくなってしまいます。色々と木工品を作って普及活動することで、市民のみなさんに木を知ってもらいたいし、愛着を持ってもらいたい」

 

「木を知ってもらうことが、森林組合のこと、豊田の森のことを理解することにつながるかもしれない。木っていいよね、楽しいよね、という価値観が広がれば、木が育つ山を所有する若い山主さんたちが自信を持つことにもつながると思うんです」

山田さんが子ども頃に遊んだ体感を元に、子どもたちが最大限楽しめるような細工を施した遊具を作る

 

 

生木で削るグリーンウッドワークの可能性

 

木の使い道を探究している山田さんが最近夢中になっているのが『グリーンウッドワーク』だ。一般的には乾燥させてから木を加工するが、グリーンウッドワークでは水分を含んだ生木を斧やナイフなどの道具で削っていく。

 

「おいでん・さんそんセンターが毎年主催している『いなかとまちのくるま座ミーティング』で、岐阜県立森林文化アカデミーでグリーンウッドワークを教えている久津輪雅(くつわ・まさし)さんのお話を聞いて興味を持ちました。その後、グリーンウッドワーク指導者養成講座を受講することにしました」

 

机の上には、山田さんが彫り出したスプーン、フォーク、ヘラが並んでいる。

「生木は柔らかいので加工がしやすい。すごく簡単に作業が進むので驚きました。普通、数センチの厚みの木材は自然乾燥で半年程度かかるのですが、生の木を手作業で薄く削ってスプーン程度の厚みにすれば数日で乾きます」

 

スプーンになる途中の木材を手に取り、実際にどのようになるのかを見せてくれた。

お手製の作業台の上に固定し、手斧で細かく削り出していく。道具を手に取ると、さっきまでのやさしい表情から、木と真剣に向き合う作り手の顔に変わった。

手斧を見せてくれた。入念に手入れしているという。

 

「腕の毛が剃れるほど研いでいますよ」と、自分の腕にあててスーッと剃ってみせた。ユーモアのある人柄が戻ってきた。

「講座を受講することで、グリーンウッドワーク周辺の方たちとのつながりができ、生の木を販売している会社の方から『豊田森林組合さんでヤマザクラを用意してもらえますか』と依頼がありました。含水率50%以上というリクエストなので、出せるかどうかこれから検証していくつもりです」

 

刃物を使う作業なので少人数でしかできないが、グリーンウッドワークの体験講座を開催することもある。山田さんの興味と熱意が、木を使い、木を知ってもらう新たな仕事につながっている。

 

『自然は楽しい!』を広めたい

 

仕事では木に向き合う山田さん。プライベートの時間でも自然の中で存分に楽しんでいる。

 

「山の魅力って、木だけじゃなくて、川も、生き物も、植物もある。みんなにもっと自然を楽しんでもらいたいです。僕自身が楽しさを体感しないと伝えることができないので色々やっています。最近は、テントサウナを注文して、もうすぐ届く予定です。うちの山でやろうと思って。どんなものかというと、まずサウナ用テントの中にストーブを設置します。ストーブの上で石を熱して、そこにお手製の柄杓で水をかけ、蒸気を作ります。山から引いた水をプールに入れて水風呂にして、暑くなったら飛び込みます。そんな遊びをします」

 

他にも趣味で石を集めたり、お子さんと竹でお箸を作ってみたり、自然の中でやれることを興味の赴くままにやっている。

 

「自然を守るとか、自然をきれいにする、ではなくて楽しんでほしい。これまでの時代は、力任せに人工的なものばかり増やしてきました。そのままでは行き詰まる、持続可能でなくなるから、元に戻しましょうと言われ始めています。多くの人々が自然の楽しみ方を理解するようになれば、きっと良い世の中になっていきます。そのために、僕自身が経験してきた面白さ、楽しさを、木に込めて伝えていきたいです」

山田政和(やまだ・まさかず)1977年愛知県豊田市四郷町生まれ、本徳町在住。高校卒業後旧小原村森林組合に就職し伐採作業と製材を学び25年。豊田森林組合総務課 加工グループ所属。木材や自然の魅力を街の人に伝えたいと木の玩具作りや簡単な工作キットを販売したり山で伐採したばかりの生木を削り身の回り品作りや椅子作りをするグリーンウッドワークという活動も行っている。

 

========= INFORMATION =========

10/16(土) 名古屋国際センター別棟ホールにて「森林の仕事ガイダンス(東海3県合同)」が開催されます。
山田さんが所属する豊田森林組合を含め、東海3県(愛知/岐阜/三重)から林業に関する事業者や団体が数多く参加しますので、森林・林業に興味のある方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

開催概要
[日時]令和3年10月16日(土)11:00~15:00
[会場]名古屋国際センター別棟ホール (名古屋市中村区那古野一丁目47番1号)
[その他]予約不要、入場無料
[主催](公財)愛知県林業振興基金、(公社)岐阜県森林公社(森のジョブステーションぎふ)、(公財)三重県農林水産支援センター、全国森林組合連合会

詳細は、こちらのページでご確認ください。

きうらゆか

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1979年生まれ。2014年、夫のUターンに伴って豊田市山村地域・旭地区に移り住む。女性の山里暮らしを紹介した冊子「里co」ライター、おいでん・さんそんセン...

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撮影 永田 ゆか

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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