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あなたがいるから野菜を作れる。農福連携の畑を営む今枝さんに聞いた支え合う食の家族への想い

インタビュー

コロナウィルスの影響で、⾃宅待機を余儀なくされてから、野菜を育て始めたという⽅がいるかもしれない。今回ご紹介するのは、野菜を育てるプロフェッショナルである農家の今枝稚加良(いまえだちから)さん。

2019年に独⽴し、豊⽥市⼿呂町で「⾃然農福の⼒」という農園を営んでいる。特徴的なの は肥料・農薬を使わない⾃然栽培で野菜を育てていること、さまざまな障がいを持つ福祉事 業所の利⽤者さんたちに来てもらい農作業を共にやっていることだ。農業と福祉を組み合 わせたこのスタイルは「農福連携」と呼ばれている。

今枝さんの野菜は、おいしい。⼤根は⾝がしっかりとしまっている。⽔菜は茎が太く、みず みずしく、とてもシャキシャキしている。

 

しかし、今枝さんが農業をする理由は「おいしい野菜を作るため」だけではない。「おいし いを共有すること」で、『⾷の家族』を作るためだ。

「たとえ⾎がつながっていなくても、育てる⼈、調理する⼈、買う⼈、⾷べる⼈みんなが『お いしいね』と顔を⾒合わせ輪になることで、⾷の家族になれるんです」と話す。

おいしい野菜が育つ農福連携の畑。今枝さんはそこで野菜だけではなく、⼈が成⻑し、⽀え 合う場⾯に何度も出会い、『⾷の家族』という思想を持つようになった。畑で⼈が育つとは どういうことだろう? 食の家族になるって?

今枝さんは⻘々としたじゃがいも畑に⽴ち、時々太陽のようなまぶしい笑顔で、「ハハハハ ハ!」と笑いながら、これまでのことを教えてくれた。

Photo:佐伯朋美

 

 

農業を体得したい!自然栽培家に必死の交渉

 

 

今枝さんの農園は、豊⽥市の街と⽥舎のちょうど中間ぐらいに位置している。⾼台にあり、⾒晴らしがいい。⽬の前に広がるのは広⼤なじゃがいも畑。あと少しすれば、レタスや⽟ねぎ、にんにく、かぼちゃが収穫できると教えてくれた。

 

 

「農家っぽいカットを撮影させてもらえますか」とお願いをすると、地主さんが所有してい るという元プレス⼯場の倉庫から31⾺⼒のトラクターに乗って颯爽と現れた。

 

 

今枝さんが農福連携の道を歩むことになったのは、8年前の出会いがきっかけだった。 

「2012年、不動産仲介会社で働いていました。名古屋市にある就労継続⽀援A型事業所 (以下、事業所)の社⻑夫妻が、お客さんとして来ていました。ある⽇、新しく農業と障がい者福祉を組み合わせた部⾨を⽴ち上げたいけれど、スタッフがいなくて困っていると 相談を受けました。シンプルに『⾯⽩そう!』と感じました。実家が少し畑をやっていたこと、⼩学⽣の時に養護学校と交流していたこともあり、未経験でしたがなぜか⾃信がありまました(笑)」

直感を信じ、転職した。就労継続⽀援A型事業所は、障がいや病気などのために⼀般就労が難しい⼈たちが、国が定めた最低賃⾦以上を受け取りながら働く施設。事業所は、利⽤者ができる仕事づくりをして事業収⼊を得る必要がある。

「事業所として畑を借り、育てた野菜を販売しつつ、農家さんから仕事をもらって収⼊を安定させる作戦でした。でも、畑を借りるところからハードル⾼かった!当時は、農福連携なんて全然知られてなかったので、貸しているという所に問い合わせても、障がい者の⽅がやると伝えると⾨前払い。名古屋市では⾒つからなくて、豊⽥まで来てやっと畑を借りることができました」

 

 

近くで畑をやっていたオイスカ中部⽇本研修センターの⽅に指導を受けながら、農業を始めた。⾃分たちの畑を持つことはできたが、仕事をもらうあてがまだ無かった。そんな時、⼀本の電話がかかってきた。

「豊⽥市内に6店舗を持つスーパーやまのぶの会⻑さんからでした。オイスカさんのつながりで知り合っていたのですが、『今枝さんのところで、⽥んぼの草刈りをしてくれない?』と危機迫った様⼦でした。やまのぶの農場としてやっている農業⽣産法⼈みどりの⾥で⼿が⾜りない。⾼齢の会⻑が⾃ら草刈りしているほどだと聞きました」

外から仕事をもらう初めてのチャンス。逃したくなかったが、みどりの⾥を運営する⾃然 栽培家・野中慎吾さんが難⾊を⽰しているのを感じていた。

 

「会⻑とは草刈りだけでなく、みどりの⾥の⼿が回らない6反の⽥んぼを⽥植えから収穫までやらせてもらえるという話になりました。今では、農福連携で先端を走っている野中さんですが、当時は⼈⼿が⾜りなければ パートさんを雇えばいい、障がい者の⼈になぜ⽀払いをしなければならないの?という姿勢でした。農家さんにとって、福祉を⼊れることで、農業が失敗することは許されないこ と。リスクに思われることは当然でした」

 

でも、仕事を受けたい。農業のプロの元で経験と知識を得たい。今枝さんは、⾷い下がった。野中さんの損が出ないように交渉しよう。野中さんがその⽥んぼをやった場合の収益 を、仕事の請負⾦として先にもらう。もし、思ったような収穫がなかった場合、事業所が マイナス分の補填をする。もし予想以上に収穫があれば、プラスになった利益は全て渡 す。どっちに転んでも、野中さんの損が出ないようにすると伝えると、やらせてもらえる ことになった。

 

現場に⾶び込む機会を得た今枝さん。⽥んぼを⼀⽣懸命やるのはもちろん、業務外の時間や休⽇はボランティアとして畑を⼿伝いに、みどりの⾥に通い詰めた。

「ある⽇、出荷できない野菜を⽚付けていて、まだ⾷べられそうな⽔菜をかじってみまし た。それがめちゃめちゃ美味しかった!味に感動しました。テンション上がって、『俺、 絶対に⾃然栽培で農業していく!』ってなりました」

「⽥んぼは結果的に、想定した収穫に届かなかったので、野中さんに返⾦しました。でも 1年障がい者さんの動きを⾒ていてくれた野中さんは、農福の可能性を感じたようで、い ちご栽培の仕事など段々増やしてくれるようになりました」

 

 

 

弱さを⽀え合い⼈が成⻑する 畑の世界

 

 

⾃然栽培の農作業は、⼀緒に作業をする利⽤者さんたちに驚きの変化を与えた。

「事業所の利⽤者さんたちは、知的、精神、⾝体など障がいの種類は様々でしたが、皆さん⽐較的軽度の⽅たちでした。⼀般企業の就労にチャレンジしても、⻑く続かなかったり、⾃信をなくて⽣きづらさを感じたり、表情が無いような状態で皆さん⼊所してきていました。それが⼀緒に農業をやって、気が付くと『え!?こんな⼈だったっけ?』というくらいに成⻑していました。

 

例えば、軽度の知的障がいがある若い男性。最初は追われるように働いていたんですが、 草刈りを覚えると、仕事が合っていたようで、徐々に道具などにも興味を持ってやるようになったんです。『ここやっておいてね』と⼀声かけると、草刈り機の燃料を配合して、 機械のメンテナンスをして、作業のやり⽅を⾃分で考えてやれるようになりました。

 

彼は原付免許を取るというチャレンジをしました。漢字が読めないからと諦めていました が、成⻑ぶりを⾒ていた農業部⾨の仲間が背中を押しました。『できるよ!』って。僕も、彼を応援するためにフリガナを振った教本をプレゼントしたんですが、時間があると開いて勉強していましたね。結果、⼀発合格!すごく⾃信がついたんだと思います。最終的には、『⼀般就労に⾏きます』と晴れやかに辞めていきました」

 

利用者さんはこちらまでうれしくなるような笑顔を見せる(社会福祉法人無門福祉会の畑にて)


「室内の作業場では思わず注意してしまうような姿も、畑では何らおかしくないと思える」
自然の中にいることで大らかになれると無門福祉会の職員さんは話していた


取材中、利用者さんに手を取られて照れ笑い

 

今枝さんに⾔わせると、利⽤者さんたちの働きぶりは、「障がいのある⼈たちとは思えないほど」。そこにはすごいチームワークがあると⾔う。

「視覚障がいの⽅と聴覚障がいの⽅がペアになって作業をしていることがありました。ど うやってコミュニケーションを取るんだろう?と思いますよね。その⼆⼈の場合は、聴覚 障がいの⽅がリードして視覚障がいの⽅の⼿を取ったりしていました。

みなさん個々で作業をしているわけじゃないんです。⼀緒に畑にいる仲間は、お互い⾃分 とは違う弱い部分があって苦労してきたことを理解している。だから、できないことがあ れば責め合うのではなくて、助け合う。すごいチームプレイですよ」

 

⾃然栽培の畑の中、みんなで⽀え、補い合う。お互いの成⻑が「野菜」という形で実を結 ぶ。それを「おいしいね」と⼀緒に笑顔で⾷べる。まるで家族のような農福連携の営みを もっと広げていきたい。

「事業所の農業担当者として働きながら他の福祉事業所にその良さを伝えてくのは⽴場的 に難しい。それなら、どんな障がいがあっても農福連携の良さを体感できるような農家に ⾃分がなればいいんだと気づきました」

2019年1⽉、「⾃然栽培」と「農福連携」から⽂字を取って「⾃然農福の⼒」と名付け、 独⽴した。

 

 

通じ合えることの喜びを 

利用者さんが教えてくれる

 

1年⽬は、どんな障がいを持っていてもやれる作業があるじゃがいも栽培をメインに⾏っ た。植え付け、収穫に関わってもらったのが、社会福祉法⼈無⾨福祉会に通う⽣活介護の 利⽤者さんたち。無⾨福祉会は、2015年から事業所として⾃然栽培に取り組んでいる。利 ⽤者さんたちは農作業の経験があり、今枝さんの畑に来ても⼤活躍。2反のじゃがいも収 穫を10⼈が延べ3⽇でやりきった姿に驚いた。

無門福祉会の事務局⻑/磯部⻯太さんは全国的に農福連携のつながりを広める『自然栽培パーティ』の理事⻑も務る。今枝さんとの付き合いは⻑く、息がぴったり

 

「⽣活介護の⼈たちは、例えば排泄、⼊浴、⾷事など誰かに⽀えてもらわないと⽣活に⽀障が出たり、会話ができなかったりします。その⼈たちが畑に来ると、それぞれが得意な作業をやる。じゃがいもを根っこから掘って⼟を振り落とす⼈、収穫しない枝葉の部分を かき集めて運ぶ⼈、働いている姿を⾒ると『本当に⽣活介護の⼈?』と思うくらいです よ」

 

利⽤者さんたちの成⻑も⾒ることができた。

「男性Kさんは、収穫したじゃがいもをカゴに投げ⼊れていました。『優しく⼊れてね』 と⾔葉で伝えても理解できない。Kさんは『⼊れればいいのに、なんで⾊々⾔われるんだ ろう』と思っていたんじゃないかな。ある時、『しーっ』と⼈差し指を⼝にあてるジェス チャーをしていました。Kさんは彼なりに考えて、⾳を出しちゃいけないということかもしれないと想像して、そのジェスチャーをしたんだと思います。僕がすかさず、そうだよ という気持ちで『しーっ』と返したら、それから⼀切投げ⼊れなくなりました。彼は意思疎通ができたことに、すごく喜んでいました。その姿に、僕も感動。通じ合えるとうれしい、やっぱりそれが⼤事なんだと教えられました」

 

畑に来た利⽤者さんたちが楽しく作業ができるように今枝さんが⼼がけていることがあ る。 利⽤者を率いる職員さんに、その⽇やることをわかりやすくシンプルに伝えることだ。

「職員さんは⼤変。僕もその⽴場だったんでわかります。利⽤者さんたちのお世話をしつ つ、農業で成果を出さないといけないプレッシャーもある。職員さんの気持ちは、利⽤者さんに伝染するんです。職員さんが追い込まれると、場が荒れる。逆に前向きになって 『みんな頑張ろうね!』と声かけするくらいになると、利⽤者さんたちも動き始める。職 員さんがやる気になれる環境を作らなければ、農福連携はうまくいかないと、農家の⽴場になって確信しました」

 

働いてもらった分の報酬は、どうしているのだろう。

 

 

「無⾨福祉会は、⾃分のところに加⼯所があり、販売もしています。そのためお⾦ではな くて、畑で採れた作物をお渡ししています。A型事業所には賃⾦をお⽀払いしています。 他の事業所さんとも、よく相談しながら決めています。⼀律の時給を決めてしまうと、こ ちらとしても利⽤者さんの『やれる、やれない』に囚われてしまいますから」

 

 

 

お互いを想い、輪になる ⾷の家族を広げたい

 

効率を⽬指したくない、今枝さんにはそんな想いがある。畑で野菜が成⻑し、利⽤者さんが成⻑する。お互いの成⻑を喜び合い、できた野菜のおいしさを共有する。⾷べることを通じて家族になれる。『⾷の家族』になれることが農福連携の⼀番の醍醐味だという。

 

「⼈⼿が⾜りないから、農家の下請けとして障がい者に来てもらう、福祉事業所の賃⾦を 向上するために農業を取り⼊れる。いかに儲けるかというビジネスモデルとしては間違ってはいないと思う。でも、シンプルに『なぜ野菜を育てるか』を考えると、それは⾷べるため。⾷べることは命につながります。命につながる農は、上下の関係性ではなく、みんなが輪になる形でやりたい。農業資材を作る⼈、農家、利⽤者さんたち、事業所の⽅、野菜を調理する⼈、購⼊する⼈、⾷べる⼈、誰が偉いとかではなく、お互い役割があって、 尊重しあう。みんながいるから美味しい野菜が⾷べられる、を胸に⾼め合っていける『⾷の家族』が⾃然栽培の農福連携で実現できる。それを知ってもらって仲間を増やしたいんです」

効率を求めない関係性。今枝さんの気持ちに応えるように「⾷の家族」は増えている。例 えば市内の居酒屋ROKU KANDA。

 

「居酒屋さんなのにバリアフリーの設備が整っていたり個室があったり。障がいがあっても家族で飲みに来られるように、という素敵なお店です。社⻑さんに僕の活動を話したら 『野菜、全部買うよ』と。⻄三河の情報を掲載するフリーペーパーに、僕の所の取材を依 頼してくれて⾒開き2ページ特集してもらったこともありました。最近は、従業員の皆さんを連れて畑に来て、1⽇作業してくれました。コロナの影響で仕事がないからやらせてほしいと。僕は何の⽀払いもしていないけれど、従業員の⽅には給料を払っている。⼤恩 ⼈です」

 

⼀点の曇りもない笑顔を⾒せながら、楽しそうに話をしてくれた今枝さん。未来に向かって突き進んでいるその姿の裏に、意外な過去と、確固とした信念があった。

「幼少期の頃から、劣等感を感じて育ってきました。⼤学に⾏ってもやりたい仕事が⾒つからず、とりあえず就職しました。⼈と関わる仕事で楽しくやっていたけれど、1⽇16 時間の⻑時間労働。1年後、⾵邪が治らないと思って病院に⾏ったら過労で精神安定剤と胃 薬をもらいました。仕事を辞め、転職を繰り返す⽇々。⾃信をなくし⽣きづらさを感じていました。あわよくば死にたい、そんな⾵に感じていました。ちょうど東⽇本⼤震災があ り、⼤学の恩師からボランティアに⾏くことを薦められた。震災の2ヶ⽉後、⽣々しい⽖ 痕が残る現地で、ある⽇『ここは遺体安置所です』と教えられました。その瞬間⾜の震えが⽌まらなくなって、⾃分が情けなくなりました。思い出すだけで泣けてきます。死にた いと思っている⾃分が⽣きていて、希望を持って⽣きたい⼈たちが向こう側で亡くなって いる。あの⼈たちの分まで⽣きなければ、どんな命でも『⽣まれてきてよかった』と思えるようにしたいと、使命に感じるようになりました。⽣きづらさを抱えていても、どんな 障がいがあっても、無表情から笑顔になれる、農福連携はそんな環境を作りやすいんです」

 


2019 年夏、娘さんが誕生。食を未来につないでいく決意を新たにした



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 こちらで、「自然農福の力」野菜を使った料理が提供されます
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今枝稚加良(いまえだ・ちから)愛知県小牧市出身、豊田市在住。名古屋市内の就労継続⽀援A型事業所で、農業部門の担当者として農福連携を推し進める。その経験を活かし、2019年、農家として独立。「自然農福の力」という農園名の由来は、肥料・農薬を使わない自然栽培の「自然」と、農業と福祉の連携を表す農福連携の「農福」を合わせた、自然栽培で農福連携を行い「自然」も「人」も幸せになれる農業のチカラになりたいという思いから名付けた。
効率や生産性を求めるのではなく、畑での成長、野菜のおいしさを喜び合える「食の家族」の関係性を大切に、仲間を増やしていきたいと活動している。
連絡先:自然農福の力ホームページ
e-mail: ichikara.6.8@gmail.com

きうらゆか

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1979年生まれ。とよたとつながるローカルメディア縁側編集長。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。2014年、名古屋市から豊田市旭地区に拠点を...

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