足助高校・阿部校長に聞く【コロナ、みんなの現時点#3】模索し続ける教育の現場。

インタビュー

愛知県に緊急事態宣言が出たのが4月10日。豊田市での感染者数は、8月18日には160人を超えた。コロナウィルスに影響を受けた状況・受け止め方は刻一刻と変わっていくに違いない。だからこそ時間的流れのなかでの今、【現時点】を記録しておきたい。豊田市で暮らし、働く皆さんにお話しを伺いました。

阿部卓巳(あべ・たくみ)愛知県立足助高等学校長。足助高等学校に3年間勤務。旧東加茂郡における唯一の県立学校として、地域社会と連携し特色ある学校教育を展開。学校の魅力化を図り、地域社会で活躍できる人材育成を目指している。 特に、昨年度から本格的に「観光ビジネス類型」の教育課程を推し進めている。 足助高等学校のホームページ http://www.asuke-h.aichi-c.ed.jp/

2020年春。新型コロナウィルスの感染拡大を受け、政府は2月27日夕方、3月2日から全国の小中高と特別支援学校について臨時休校することを要請した。5月23日に緊急事態宣言が解除され全国の学校が再開に向かったが、その頃現場では何が起きていたのだろうか。

 

再開後の学校現場で、苦悩しながら学びを保障しようと努める足助高校の阿部校長にお話を伺った。足助高校は豊田市中山間地域の旧足助町、全国有数の観光地・香嵐渓のすぐそばに校舎を構える。


 

小規模だからこそ、みんなが活躍できる地域の高校

 

まずは足助高校について教えていただけますか?

今年で創立70周年になります。「旧東加茂郡(現豊田市中山間地域の一部、豊田市と合併)に高校を」という住民の強い願いから生まれました。全校生徒220名の小規模校ですが、地域に根ざした学校として、神事やお祭りの参加による伝統文化継承活動や、地元でのボランティア活動など、各取り組みに多くの有志生徒が参加して成果を上げてきました。

昨年度より特色のある教育活動を深めるため、地元企業への就職を目指す一般教養類型、大学進学を目指すキャリアデザイン類型、観光地ならではの学びを生かしてサービス業への就職を目指す観光ビジネス類型の3類型をスタートし、多様な進路選択ができるようになっています。

 

生徒は山間地域から45%ほど、市街地から通学する生徒が55%です。ほぼ半々くらいですが、それぞれの学年で差があります。以前は7~8割が山間地域の生徒でした。街まで出なくても勉強できる高校として、地域から期待されてきました。

 

ただ山間地域の少子化が確実に進んでいます。その影響でこの先に統廃合とか分校化となると、地域の活力が失われてしまうので、地域の期待に答えられるような高校であり続けるために、模索を続けています。

 

 

小規模校の良さはなんでしょう

小規模だからこそ、いろんな体験ができます。学業はじめ、様々な活動において、それぞれの個性が埋もれずに活躍できる。部活だって1年生からレギュラーです。補欠なしですから。中学校でも話すんですよ、君たちは主役で1年生から大活躍できるんだよって。

 

デメリットととしては人数が集まらないと団体スポーツはチームが成立しないということ。今現在サッカー部は、他の高校と合同チームを作って大会に出場しています。しかし、残念ながら野球部は廃部になりました。将来的にチームの人数が足りなかったら地域とも連携して、合同チームで出られるようなシステムを構築できたらいいですね。部活動でやりたい子がいるとなったら、その意を汲んで地域でサポートしてくださるとありがたいです。

 

学校機能を維持するために必死

 

新型コロナウィルス感染症の感染拡大を受けた休校要請に、学校現場ではどう対応していったのでしょうか。

すべてが初めての経験でした。休校要請が出された翌日が本校の卒業式で、いきなりの時間短縮や来賓の方への連絡などバタバタでした。それからも何度も県の教育委員会から通知があり、その都度職員で感染防止について話し合いを繰り返しました。

 

入学式は行うことができましたが、令和2年度の始業式はできませんでした。休校中は学校によってはzoomなどのツールを使うこともあったようですが、本校では悩みながら2週間ごとに学年別で分散登校しました。

 

休校が長期になり、県からオンラインで学習支援の方針が出ましたが、システムは整っていませんでした。小規模校は教員の人数が少ないために業務も多岐に渡ります。特に本校は教員が学年をまたいで担当クラスを持っています。また習熟度の幅があるので細かく分けて指導しなければならず、オンライン対応が困難でした。

 

家でできることと、対面でしかできないことを見極めて授業計画の練り直しをする必要もありました。先生も生徒も頑張ってなんとか1学期を終えた感じです。休校がいつ明けるかも分からなかったので、対策も難しかったですね。学校が再開してからは、授業の遅れを取り戻すのに加え、消毒や検温などのコロナ対策も加わりました。  

 

 

生徒さんたちの様子はいかがですか

特に3年生は本当に不安で仕方なかったと思います。就職試験も大学の共通テストも個別の学力試験も、コロナ禍の中でどういう形態になるかわからない。授業も遅れを取り戻すためにコンパクトにして進めていきます。本来ていねいに行う進路指導もすっぽり抜けてしまいました。1年生は入学して2か月間学校に来なかったわけです。キャリア形成や進路への道筋など、各学年に応じた対応がありますが普段のようにいきませんでした。

 

地域とつながり生徒の学びを高める

 

大変な状況下ですが、生徒たちが学び続けられるためのチャレンジが続いていますね。

現在、定員割れが6年目で、このまま行くと学校が縮小されてしまう可能性がすごく高い。厳しいですがコロナの状況でも、動いていくしかないかなと思っています。

 

そんな中、今年11月1日に、2017年から続いているジビエカレープロジェクトの第3弾として「とよた里山鹿肉欧風カレー」というレトルトカレーが販売になりました。これは本校と、足助の新盛自治区にある獣肉処理施設の山恵(やまけい)、CoCo壱番屋をフランチャイズ展開している(株)ワイズが共同開発したものです。

観光ビジネス類型2年生は「地域のことを知り、地域の魅力を伝える」ことを目的にしてこのカレーのプロモーション動画を制作したり、商品発表会の企画などを行ったりしました。


10月28日に行われた商品発表会の様子


多くの観光客でにぎわう香嵐渓でもPRした

 

また、香嵐渓が紅葉で色づき、多くの方が観光に来ていた11月14、15日には、観光ビジネス類型3年生20名が2日間限定の着物カフェ「喜の輪kinowa」をオープンしたり、バルーンを販売したりしました。これは空き家を活用し、足助の町の魅力を発信しようという試みで、関係各所や足助の商店などに協力していただきました。生徒たちはSNSを使って積極的に情報発信を行いました。

足助の古い町並みでオープンした着物カフェ「喜の輪kinowa」

 

おいでん・さんそんセンターや支所、観光協会や商工会など、地域の方々に支えてもらいながら、観光ビジネス類型の取り組みを核に魅力ある学校にしていきたいと思っています。

 

 

これから社会にでていく若者に必要な力は何だとお考えですか?

社会は急激に変化しています。人工知能の発達で、子どもたちが就職する頃にはたくさんの職業がなくなっている、と言われています。「ICT(情報通信技術)を活用しながら情報を読み取る力」、「社会で起きている課題を発見したり解決する力」が必要になるのではないでしょうか。またコミュニケーション能力や企画力、プレゼンテーション力とか、大量な情報の中での発信力が求められています。

 

 

新しい生活様式の中での教育についてどうお考えですか?

ソーシャルディスタンスや密を避けるという新しい生活様式の中で、教育は果たして成り立っていくのかなと不安を覚えます。

家でも企業でもリモートでできる範囲が分かったけれど、でも社会すべてがそうなったら成り立たない。生身で培っていく部分を見失ってしまうと、社会はおかしなことになってしまう。AIに指示されたことに従っていくような社会になったら恐ろしいなと思います。

 

 

コロナ禍で課題となった「教育格差」についてどうお感じですか。

コロナによってより広がったでしょうね。家にパソコンやタブレットがなかったらオンライン授業ができません。家庭によっては端末としてコンピュータがなく、スマホだって一人一台あるかどうかわからない。一方で、塾によるオンライン講義を受けることができる家庭もある。

 

家庭学習向けの塾の方が当然オンラインに特化しているし、以前からやっています。「学べる環境の格差」はより広がったと思います。公立高校で、端末のない家庭に県から貸与するという話がありましたが、予算の問題もあり結局休校中には間に合いませんでした。

 

 

閉じていては、たちゆかなくなる

 

ー今後の学校教育について感じていることを教えてください。

教員の仕事っていうのは、時間を懸けたら懸けた分だけ生徒が吸収してくれます。やりがいがあるがゆえに、時間がかかる仕事です。しかし、今、過剰な時間外労働を防ぐための働き方改革が求められ、新型コロナウィルスの影響で消毒やカリキュラムの練り直しなどの業務も増えている。結果として時間がありません。

 

教材研究やクラス運営、部活動等について考えることを「時間がないからしない」っていうのは、僕らの仕事上できません。だからこそ1クラスの生徒の定員を40人から減らしてもらうことや、外部の人材に協力していただかないと、目の前の生徒たちを育てていくことが難しくなってしまいます。

 

確かに自分の時間も大事だし、過労で心が病んでしまうということもあるので、本当に難しいですよね。小規模校ゆえ、学校の人的資源はギリギリです。教育に対する要望も多様化しており、ぜひたくさんの地域の方に学校に関わっていただきたいと思っています。

 

取材 小黒 あつこ

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豊田市生まれ、矢作川の川岸で育つ。おいでん・さんそんセンターコーディネートスタッフ。 重症アトピー持ちの長女の出産を機に、自然に生きるとは何かと向き合う。 ...

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