みんなが大事、だからみんなで決める。子どもと大人が一緒につくるフリースクールかのこ

インタビュー

9 月某日、朝の 10 時ごろ。保護者の送迎で子どもたちが活動場所に集まってくる。

この日の活動場所は松平地区豊松町にある豊松区民館。自治区の集会所を借りている。30 畳ほどの 広間や、小さなキッチンなどがある。

「まだ来てない子がいるね。あと少し待とう。その間、絵本を読もうか」 運営スタッフの安藤さち子さん(通称くららさん)が声をかける。

ホワイトボードには今日参加する予定の子どもたちとスタッフの名前が貼ってある。その前に子どもも大人もみんなで輪になってめいめい座る。


絵本を読んでいるのが、くららさん

 

かのこの活動は、朝のミーティングから始まる。

みんなで輪になって顔を合わせて、ひとことずつ話す。「今日何したい?」という話題を中心に、子どもたちから話したいことが出てくるとそれに応じながら、リラックスした雰囲気に包まれている。

「今日ここにいるひとりひとりの存在や様子をお互いに受け止めたいと思って、みんなで輪になってミーティングをします」と、くららさんは話す。

時には、ミーティングの間に床に寝そべる子もいる。スタッフたちは、そのときそのままの行動をふわりと受け入れ、「じっと座っている」ように促すことはあまりしない。見守っていると、寝そべりながら、その子なりに参加しているのが伝わってくる。

 

小学生のためのフリースクール『かのこ』

 

かのこは、毎週火曜日と金曜日に開かれている小学生のためのフリースクールだ。活動時間は10時から15時で、松平地区を主な活動場所にしている。

子どもたちは、同地区だけでなく豊田市内の各地や岡崎市などからも通ってくる。学校にまったく通っていない子も、かのこの活動日以外は学校に行く子もいる。在籍しているのは15名で、ひとりひとりのことがわからなくなってしまうほど多く受け入れようとはしていない。

 

1回の活動日に5~10名の子が集まって一緒に過ごす。集まった顔ぶれによって、その日その日の様子は大きく異なる。

拠点としている豊松区民館で1日過ごすこともあれば、近くの広い公園に出かけることもある。公園では自転車を借りることができ、かのこの日に初めて自転車に乗れるようになった子をみんなで喜んだこともある。

また、個人が所有している森をお借りして活動する日もある。子どもたちは生き物を見つけたり探検したり、のびのび過ごす。

活動場所や内容は、子どもたちの様子や参加できるスタッフの人数、天候などに合わせて前日までに決める。森での活動は危険もあるので、スタッフが3人以上参加できる日にしている。

 

”子どもたちが自分で決めること”を大切に

 

子どもたちの出欠の連絡は、当日の朝にすることになっている。

「今日は森の活動だから行く」と言う子もいれば、同じ理由で休む子もいる。「今日は学校に行くから、かのこを休む」という子もいれば、当日の朝になって体調の変化を感じる子もいる。   

かのこでは、そういったひとりひとりの感情や意思決定をなるべく大切にしている。

参加費はひとり1回1500円。月謝制にしない理由は、「月謝制だと親はどうしても、なるべく休まず利用してほしいと思ってしまいますよね」と、ご自身も子育て中のくららさんが笑う。

金額は悩みながら決めている。「月に20日参加したとして3万円以下というのを目安に、1日1000円にしたいと本当は思っているんです」。家庭の負担をこれ以上増やさないために、賛助会費を募り、助成金を利用することを模索して、「金銭的な理由で子どもの希望に添えない」ということをなるべくなくそうとしている。

立ち上げ当初は週1回の活動だったが、2年目の今年は子どもたちのニーズに合わせて週2回に増やした。子どもたちやスタッフも徐々に増えて、活動を長く継続していくことを本格的に考え始めた。市民活動センターに団体登録して活動をPRしたり、有志団体から一般社団法人に変えることも検討したりしている。

 

ひとりひとりの興味や得意を持ち寄る

 

子どもたちと話し合って企画し、遠足や社会見学に出かけることもある。

行先や内容は、子どもたちの興味を発端に何度も話し合いを重ね、時間をかけて決めていく。意見が分かれてどうしても決まらないときも、子どもたちから出る声を受け止めながら、あせらずにみんなで考えるようにしている。

 

取材にお邪魔した日、ふたりの男の子が愛知県内の全ての路線が載った図を見ながらなにかを熱心に話し合っていた。

何をしているのか尋ねると、「今度、かのこメンバーで金城ふ頭に遠足に行きたいから、計画を立てているの」という答えが返ってきた。

ふたりは普段から電車に乗る機会が多く路線に詳しいそうで、いくつかルートを考え、それぞれいくらかかるのか、どれくらい時間がかかるのかを計算していた。

 

うれしそうに北海道みやげを配っている子の姿もあった。「パッケージに描かれた真っ白な雪をかぶった山は、どこの山だろう?」という声が出て、日本地図を広げて囲む。おみやげをきっかけにして話題が社会とつながる。

北海道に行って来たという彼はスキーが得意で、「かのこメンバーでいつかスキーに行きたい」と考え中だという。

 

 

多様なスタッフが子どもたちと過ごす

 

スタッフは7名で運営している。農家、ファシリテーター、作業療法士、助産師、陶芸家など、多様な顔ぶれだ。かのこでは、大人もその人それぞれらしさや好きなことが引き出される。

毎月1回のスタッフで集まるミーティングに同席させて頂いた。

ひとりひとり、子どもたちを思い浮かべ、様子を丁寧に共有していく。そして、子どもたちの様子から「今度こんなことをしてみたいね」という提案や、「拠点にできそうな物件が見つかりそう」「総会ではどんな話をしようか」など、話題は多岐にわたる。

スタッフのひとりである絵美さんは、毎月のミーティングが本当に楽しみだと言う。「時間がたつのを忘れて話し込んでしまいます。それぞれの考えを聞くことが、スタッフとしても、ひとりの親としても学ぶことがとても多いです」。ミーティングの時間が充実していることも、スタッフを続ける理由の一つだという。

誰かの意見ばかりが通ることがない、フラットなミーティング。スタッフ同士の間でも「対等であること」が大切にされている時間だった。

スタッフはひとりひとり、くららさんが「この人にぜひ関わってもらいたい」と思う人に直接声をかけた。立ち上げた当初はくららさん含め3名でスタートし、活動を続けるうちに増えていった。


ある日、集まることができたスタッフでモーニングに出かけたときの写真

 

くららさんとそれぞれの出会いは、「豊田みよしおやこ劇場」の仲間や、「もりのようちえん」でのつながり、「イエナプラン教育勉強会」で一緒になったことなどがきっかけになっている。くららさんがご自身も子育てをする中で積極的に参加していた活動が、共通の思いを持った心強い仲間と出会う場にもなった。

スタッフは有償ボランティアという形で関わっていて、謝礼は1回参加につき1000円だ。それでも、「かのこのスタッフはやめられない」といきいきと話す。

 

 

かのこが生まれた背景

 

くららさんが、かのこを立ち上げたのはなぜだろう。

 

「とても楽しい小学生時代を過ごしたんです」とご自身を振り返るくららさん。その思い出が、かのこを立ち上げる原動力になった。

 

話しながら笑顔がこぼれる思い出がたくさんある。「先生が、休日に自宅に招いてくれた」「学校に泊まり、夜のプールに入らせてもらった」といった小学校での出来事や、「ご近所の方のおうちに入り浸っておやつを頂いた」「描ける石であちこちのアスファルトに描いた」といった地域での思い出も。学校や地域の中におおらかな「斜めの関係」があったと振り返る。

今の学校や地域では、おおらかに子どもたちを見守ることがなかなか難しいもどかしさを、ご自身が親となって子育てするなかで感じていた。セカンドスクールなど様々な活動を主催したり、子どもの育ちに関わる勉強会なども企画したりして、できることをずっと模索してきた。

そんななか、くららさんの子どもたちが「学校に行きたくない」という時期があった。一緒に近隣にあるフリースクールを見学したときに、「松平地区でもやってみよう」と思いが定まった。その後、お子さんたちが学校に通うようになっても、かのこを続けていく気持ちは変わっていない。

「最初から、自分の子どものため、というつもりではなかったのだと思います。私自身が“こういう場所をやりたい”と、実際に活動されている現場を見せていただいた時に覚悟が決まったんです」

 

また、くららさんは「松平地区の定住委員になったことも、かのこ立ち上げにつながった」と話す。定住促進について他の地域のことも学ぶうちに、教育に力を入れることが、子育て世代を中心に移住のきっかけとなっている事例を知った。

 

「長野県浪合村(現阿智村)で取り組まれている、山村留学受け入れの取り組みに特に衝撃を受けました。母子や子どもだけでの山村留学も受け入れ、そのための住まいも用意されていて、本当に素晴らしいなと感じました」

浪合では『村全体が浪合学校』という、コミュニティスクールのコンセプトを小学校に取り入れていることも知り、松平地区の小学校でも何かできないかとすぐに行動を始めたが、様々な制度の問題もあって実現が難しいと感じたそうだ。それならば、まずは自分でできることから始めようという思いが、かのこの立ち上げにつながった。

始まって1年半たち、かのこの活動が少しずつ地域でも認知されるようになってきた。小学校の校長先生たちが見学に訪れ、豊松小学校の子どもたちは、かのこに参加する日が小学校の出席扱いになるなど、学校との連携も生まれ始めた。くららさんは、かのこに来ている子どもたちの小学校の担任の先生と、子どもたちの様子について対話し共有することもある。

かのこスタッフのひとりである野々山さんは、松平地区で、綿を育てて糸をつむぐ伝統の「がら紡」復活と普及に取り組んでいる。「糸の自給、食べ物の自給など、暮らしの営みを自給することについてよく考えます」。そのうちに、教育も地域で自給できるのではと思うようになったと話す。

 

子どもたちと消防署を訪れるなど、活動を通して地域とのゆるやかなつながりも生まれている。「かのこの活動は魅力的な地域づくりにもつながっている」と野々山さんは感じている。

 

場づくりで大切にしていること

 

かのこの活動を続けてきて「自分が変わったのを感じます」とくららさんは話す。

 

子どもたちと関わる責任感や、“こんな場を作りたい”という思いが、立ち上げ当初とても強かった。それが、実際に子どもたちと過ごす日々を重ねるうちに「自分の心が柔らかく、オープンになっていった」と感じるそう。

今は「頭ではなくて心で」子どもたちと過ごしていて、今まで以上に「子どもたちと過ごすことが面白い」と感じるようになったそうだ。

「かのこで大切にしていることは何ですか?」とくららさんに尋ねると、少し考えてから、「気楽さ」かもしれないと答えが返ってきた。

また、「ヒエラルキーを作らない」ことも大切にしている。例えば、「誰が何年生だから」ということはあまり意識しないようにしている。そのときそのときの場面で興味のある子や得意な子がリーダー役を務め、「6年生だからリーダーをお願いする」ということはしない。

スタッフもまた、フラットに在ろうとしている。「私は、こう感じたよ」といった感情表現も、大人だからと我慢しすぎずに素直であっていいんだと、子どもたちと過ごす日々を重ねるうちに思うようになったそうだ。

かのこスタッフのひとりである智子さんも、子どもたちのことを「日々をいっしょうけんめいに生きている同士だと感じる」と話す。なるべく特別なことをしようとせずに、一緒に発見してみよう、一緒に考えてみよう、と思いながら過ごしているそうだ。

「のびのびと安心して過ごしている子どもたちの姿を見ていると、なんだかこちらにも安心感が生まれてくるんです」

かのこで過ごすと、エネルギーがもらえると智子さんは話していた。

 

小さな社会実験

 

かのこは「子どもたちが模倣して遊びながらできる、小さな社会実験の場」だと、くららさんは感じているそうだ。

取材チームが訪れた日には、子どもたちのアイデアで副料理長を決める「小さな選挙」が行われていた。

料理が好きで「かのこの料理長」と呼ばれている男の子が、ある企画での晩ごはんづくりで「たくさんの人数分を作るのに思いのほか時間がかかってしまった」と考えをめぐらせ、「副料理長を決める選挙をしたい」と提案したのだ。

子どもたちが選挙ポスターを描いたり、投票箱を作ったり、立候補者が演説をしたり、真剣に誰に投票にするか悩んだり。子どもたちはかのこという場で、現実の社会で行われていることを模倣しながら、自分たちなりにアレンジして楽しんでいた。

どうしていきたいか、何が必要だろうか、自分は何をしようか…子どもたちがそれぞれに考え、仲間と試行錯誤して遊びながら、生きていきたい社会の縮図を自ら創り出している姿がそこにあった。

 

戸田育代

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豊田市の山村地域に夫婦で移住して11年。4人の子育て中。子どもたちと、野山や田んぼの広がるご近所を散歩することが好き。子どもの頃に海外に住んだことがきっかけ...

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撮影 永田 ゆか

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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