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お墓参りをそっと支える花屋の新サービス。レスキューフラワーで亡き人へ想いを届け墓を見守る『はなむけ便』とは?

インタビュー

hanairo+酒井悦子さんは花屋さんだ。

けれど、普通の花屋さんとはちょっと違う。

彼女が扱っている花は、レスキューフラワーと呼ばれている。

酒井さんは、通常の流通過程でさまざまな理由により廃棄の可能性が高まった花を仕入れ、販売している。それがレスキューフラワーの活動だ。詳しいことについては、この記事の後半を読んでほしい。

いつでもニコニコ、満面の笑顔でレスキューフラワーを手にする酒井さんは、みんなに「えっちゃん」と呼ばれて親しまれている。ここからは、この記事でも、酒井さんのことをえっちゃんと呼ぶことにしたい。

そんなえっちゃんから「ついに新しい事業を始めることを決めた」と連絡をもらったのは夏の初めごろ。

何らかの事情で墓参りが難しくなった人の依頼を受け、レスキューフラワーで花束を作って墓前にお供えし、墓石を掃除する内容だという。

後日、えっちゃんが豊田市古瀬間墓園に行くのに着いていった。新事業のイメージ写真を撮影する合間に詳しくお話を聞かせてもらうことになった。

墓園に入り、あたりを見渡す。どこまでも墓石が並んでいる広大な風景。えっちゃんはその一角にバンを止め、荷台から花束と掃除道具を下ろした。

親族のお墓に歩み寄り、作業を始めながら、開口一番こう切り出した。

「これから取り組んでいく事業の名前をはなむけ便にしました。お墓参りに行けない方の代わりに、心を込めてお花を手向けるサービスにしたい。でも『お墓参り代行』とは呼びたくなくて。『お墓を一緒に見守る』事業としてやっていくつもりです」

なぜ代行ではなく、見守りなのか。その言葉選びのこだわりの背景には何があるのだろう。事業を始めることになった経緯から、聞いてみることにした。

       

母の日に、亡き人へ花を贈りたい

えっちゃんが花屋をしていて、お供え花が果たす役割をあらためて実感したのは2024年の母の日を迎える少し前のことだった。

「母の日にお墓参りをしたいから、とお供え花の注文をされる方が予想以上に多かったんです」

母の日にカーネーションを贈るという文化が浸透しているせいか、「カーネーションをお供えしたい」という注文が特に目立った。

「亡き母は紫色が好きだったので、紫のグラデーションになるようにカーネーションの花束を作ってほしい」

「亡くなって間もないので、白のカーネーションを花束にしてほしい」

そんな依頼が次々と寄せられた。

特別な染色によって花びらが虹色になったレインボーカーネーションを必ず入れてほしいという注文もあった。

「ご依頼主は50代くらいの強面の男性で、印象に残っています。お母様がご存命中にレインボーカーネーションを見て感動されていたということで、『どんなに値段が張っても構わないので必ず花束に入れてほしい』と言われました」

えっちゃんは、大切な人が亡き後、お供え花を通して感謝や祈りを届けようとする姿に心を打たれたという。また今年の母の日にも同様な注文が重なり、お供え花が人の思いを伝えるかけがえのない存在であることをあらためて確信した。

          

お墓参りをしたい気持ちと現実とのギャップ

母の日だけでなく、えっちゃんから日常的にお供え花を買い求めるお客さんもいる。

「年配の方たちは、『お花といえば、お供え花』という感じで買っていかれます。『このお花は可愛いけれど、お供えするには背が低いから使えないかな』などの観点でお花選びをされるんですよ」

そんなお客さんとの立ち話のなかで、お墓に関するさまざまな困りごとが話題に上がることが増えてきた。

「免許を返納しなければならなくなって、自力でお墓参りに行けなくなってしまった」

「頻繁にはお墓参りに行けない。生花を供えたいけれど、花を切らすのが嫌なので仕方なく造花にしている」

「造花にしたら、風で飛んでしまうことがあって困っている」

困りごとを聞くたびに、「そういうお話、よく聞きますよ」と答えていたえっちゃんの心の中はモヤモヤしていた。

「私がお供え花を持って代わりに行きます!と即答したい気持ちだったんです。でも、一度やると言ったら責任を持って続けないといけない。だから『どうしたらいいんでしょうねぇ』と言うことしかできませんでした」

もし、困っているお客さんの代わりにお墓参りをして、お花を供え、写真に収めてお届けできたら…。

「えっちゃんが一緒に見守ってくれるなら、故人へ気持ちを届けることを諦めずに済む」

そう安心してもらえるかもしれない。

「役に立ちたい」という思いがふくらむ一方で、やったことがないことへの迷いもあった。

ひとりでも必要としてくれるなら〜はなむけ便をやろう!

ある日、えっちゃんの覚悟はついに決まった。

「どれだけ求められているかはわからないけれど、やってみたいと強く思っている自分に気づいたんです。もし『こんなサービスを待っていたよ』と言ってくれる人がひとりでもいるならきっと良かったと思えると確信しました」

40代という年齢も影響しているという。

「私の両親は健在ですが、親を亡くしたという友人の話を聞くようになってきました。お墓の世話をするということが、これまでよりさらに身近に感じられるようになってきました」

えっちゃんがスタートするはなむけ便は、豊田市在住で自力での墓参りが難しい方のために、月1回を目安に定期的にお墓を見守る。

レスキューフラワーでお供え花を作るため、入荷する花の種類はその都度変わる。そのため花材の細かい指定は難しいが、花束の大きさは相談することが可能だ。

「忙しすぎる、交通手段がない…これから、はなむけ便を利用してくださる方にはさまざまな理由があると思います。でも、ただ物理的に掃除してきてほしい、お花を供えてきてほしいということではないと、これまでの経験で感じています」

「ご依頼主には、故人に対する祈りがある。その方が伝えたい思いを、お花に託して届ける。そこをお手伝いして一緒に見守りたいと思っています」

えっちゃんは取材に答えながら、ていねいに墓石を拭きあげ、枯れた花を抜き取る。新鮮な花束を花立てに入れると、手を合わせた。

立ち上がったえっちゃんに聞いてみた。

「その枯れた花はどうするんですか?」

「お墓にいた子だから、ゴミ箱にポイはできない。家でまとめて粉砕機にかけて土へ返しています」

その返事からは、役目を終えた花たちへの感謝とねぎらいの気持ちが伝わってきた。

どうしても見過ごせなかった花たちの廃棄

ここからは、レスキューフラワーの取り組みを通して、えっちゃんのこれまでの歩みを紹介したい。

若い頃から保育士をしていたえっちゃんは30代になり、職場で胃腸風邪をもらいやすくなったことを自覚していた。40代になり、体への負担が重くなってきたことから転職を考え、以前からやりたいと思っていた植物に関わる仕事を探し始めた。

見つかったのが、ビニール包装された花束をスーパーに配達して古いものと入れ替えする仕事だった。念願の仕事についたえっちゃんは、花たちがどのような運命を辿るのかを現場で初めて知ることになった。

「運んで行くときにはフレッシュでも、ビニールの中ですぐに蒸れてしまう。花束の中で1本でもしゅんとしていると手に取ってもらえない。お客さんが一旦手に取って、桶に戻した時に茎が水に浸かりきらず傷みが早くなる。その結果、お花が大量に廃棄されます

販売の現場だけでなく、花束を作る工程でも目撃した。『新しい花が入荷したから』という理由で、まったく傷んでいない花がごっそり廃棄されることがあった。

えっちゃんは、その現実を見て胸が引き裂かれるようだった。

「誰かを幸せにするために育てられてきた花たちが、きれいなまま捨てられる。意味がわかりませんでした」

廃棄される花を減らしたいと職場の人たちにかけあってみても、簡単に解決できることではないとわかった。

「それなら、私ができることをやろう。廃棄される前に花を仕入れて救出しよう」

そう決意したえっちゃんは、開業届を出し、レスキューフラワーの花屋として歩み始めた。

花を救うために貫いている姿勢

一般的な花屋さんは仲卸業者を通して買い付けをする。えっちゃんがその仲卸業者で売れ残った花を仕入れて販売するのがレスキューフラワーの活動だ。ある意味、業界の慣習を破った試みといえる。

どのように実現させてきたのだろうか。

「当初は、『売れ残った花を安く売ると花の価値が下がる』と買わせてもらえず、目の前で全部捨てられたこともありました」

それでも徐々に理解されるようになり、仕入れることができるようになった。

えっちゃんは仲卸業者に「安く買いたいだけではないか」と誤解されることがないよう、レスキューしたいという姿勢がわかってもらえるような買い方をしている。

「レスキューフラワーする場合は、選り好みすることなく、仲卸業者さんに提示された価格のまま『はい、喜んで!』と買わせてもらいます。どんなものが残っても大丈夫ですという、最終受け皿のつもりでいます」

レスキューフラワーで広がった花選びの楽しみ

えっちゃんは、レスキューフラワーを主にマルシェに出店して販売している。お客さんと顔を合わせて、言葉を交わすことができる対面販売をすることも、えっちゃんのこだわりだ。

始めは、一般的な花の値段を参考にして、種類ごとに売値を決めていた。しかし、その値付けが大変になってきた。さらに、レスキューしてきたという点では同じ花たちなのに違う値を付けることが、なんとなくしっくりこなかった。

そこで「すべての花を100円で売ってみよう」と決めた。

本来は花屋さんで高く売られている花ばかりに人気が集まると思いきや、そうではなかった。リーズナブルな花も、みんな等しく選ばれていた。

「お客さんが楽しそうに選んでいる姿を見てうれしくなりました。値段を気にせず、自分の気持ちに素直になって家に連れて帰りたい花を選んでもらえている、そう感じました」

次に、1本で100円、13本で1000円という価格を設定した。すると、また思いもよらない反応があった。

13本持って帰りたいけれど、家に小さな花瓶しかないお客さんが「すべてを家に飾ることができないから、残りはプレゼントにしようと思う」と教えてくれた。誰かを思い浮かべながら選ぶようすが、えっちゃんにはまぶしく見えた。

レスキューフラワーのことを、お客さんはどう思っているのだろう。

「レスキューされてきた花たちのストーリーを知ることで、愛着を持って何度も利用してくれる方が多いです。『私、この子を最後まで面倒見るからね』って言ってくれるお客さんもいて、うれしい驚きでした」

当初は眉をひそめられたレスキューフラワーの活動の認知は、日ごとに高まってきた。現在では、数ヶ所の市場で売り手から声をかけられるほどになっている。

「いろんな業者さんに『売れ残りそうな子いますか?』と質問して回っていることが功を奏したかもしれません。また、業者さんの横のつながりで『あの子に言ったらまとめて買ってくれるらしいよ』という噂が口コミで広がってもいるようです(笑)」

「最初は口ごもっていたのが、今ではレスキューフラワーをやっています!と堂々と言えるようになりました」

人生にそっと寄りそう花を、あなたに

えっちゃんは、作業小屋を兼ねた店舗に、2年ほど前から花桶に数本のレスキューフラワーを挿して、「心の栄養花 どなたでもご自由にお持ちください」と書いたポップを添えている。

夜のあいだに通りすがりの人が持ち帰れるようにと、雨の日と猛暑日を除いて、毎日欠かさず花を用意しているのだ。日中活動する元気がない人にも、花がそっと寄り添えるように。 

このエピソードからは、花の力を心の底から信じるえっちゃんの想いが伝わってくる。

これから、はなむけ便をスタートするえっちゃんには、レスキューフラワーで多くの花を救い、活動の認知を少しずつ広げてきた実績がある。

花へのゆるぎない信頼、持ち前の行動力、満開の笑顔があれば、花に想いをのせて故人に届けるこの新しい事業も、必ず実を結ぶだろう。

たくさんの人々の心が、花を通じて満たされる未来がきっと待っている。

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きうらゆか

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1979年生まれ。2014年、夫のUターンに伴って豊田市山村地域・旭地区に移り住む。女性の山里暮らしを紹介した冊子「里co」ライター、おいでん・さんそんセン...

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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