目からウロコの田舎があった!【モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録#1】
モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録では、現役大学院生の市川里穂さんが、大学生だった頃、豊田市旭地区に短期滞在したこと、その前後をふり返ります。田舎出身なこと、自分について、モヤモヤしていた里穂さんの目に田舎はどう写ったのでしょう? カバー・文中イラスト:るり(Twitter@kknk_1217)
幼いころから田舎を好きになれなかった。
それ以上に、住み慣れた地域を誇れず、うまくいかないことを生まれた環境のせいにしてしまう自分のちっぽけさも好きになれず苦しかった。けれど大学2年生の時、豊田市の田舎、旭地区に3週間滞在したことが私にとっての転機になった。旭に住む人たち、そして旭が好きな人たちとの出会いが、田舎へのイメージを前向きで多面的なものに変えてくれたように思う。
おまけに、弱くて不甲斐ない自分も、ありのまま受け入れることができるようになった。
旭に滞在した、あの夏休みから3年が経ったけれど、現在は地元で家族と暮らしながら、月1回は旭へ足を運んでいる。このエッセイを通して、田舎も自分も肯定できずにくすぶっていた私が、旭によって救われた経緯を綴っていきたい。
大きな山を望む、自然豊かな農村地域に育った私は、幼少期から地元の閉塞感が苦手だった。学校でいじめられるとか、特別ひどい目にあった訳じゃない。
でも、人間関係の狭さゆえにうわさ話や評判がすぐに広まってしまう。誰に頼まれたわけではないのに、必要以上に“いい子”で居ようとして息苦しさを感じていた。だから、志望大学を決める際は「とにかく県外へ」とこだわっていた。
受験勉強が好きになれなくて一浪したものの、愛知県の大学に行くことになった。
キャンパスは名古屋市内から離れた郊外。19年間実家で暮らしていたので、家族以外の人間との共同生活はとても刺激的だった。夜にルームメイトと一緒にリビングでご飯を食べて、今日学校でどんなことがあったとか、バイトでの武勇伝とか、他愛もない話で盛り上がる。
しかし、共同生活と言ってもずっと人と一緒に居るわけじゃない。寮には1人1人にちゃんと個室があって、誰かと居たいときでも孤独にならざるを得ないこともあった。だから、得体の知れない虚しさのような感情によく襲われた。気を紛らわすために、だらだらと10時間スマートフォンをいじって、気が付いたら1日が終わっている…なんて日もよくあった。
そんな自分にしびれを切らし、「買い物に行こう!」と、ふらふらと名駅や栄に出かけたりもした。街には化粧品やかわいい洋服のお店が並び、女子として“自分を高める”ためのチャンスにぶつかることができる。でも、なぜだろう、私は何も買うことができず下宿先に戻ることが多かった。「高い交通費をかけ、名駅や栄に行ってもウインドーショッピングで毎回終わる」という話を、気が合いそうな友達にしても、「なんでそんなことするの?普通に交通費が勿体なくない?」と言われた。1ミリも共感されなくて驚いたのを覚えている。
どうしても、“女子力”を極めることにお金を費やす気になれず、大学には「メイクしました」というのが一応分かる程度の化粧と、適当な洋服を着て通学していた。だからか、ふいに同級生男子から「女っ気ないね」とからかわれたこともある。でも私は「別に女らしくするために生きてるわけじゃないし…」と、彼の言葉に駆り立てられる訳でもない…。何故かそんな自分にモヤモヤしてしまった。「身だしなみなんて最低限ちゃんとしてれば良い」という感覚はおかしいのか?と。
今振り返れば、大学に入ったばかりの頃は、〈物欲を持てない自分〉を責めがちだった。みんなが「嬉しい」「幸せ」と感じることへのセンサーがすこぶる鈍く、あたりまえの基準を自分は満たせていないような気がした。
「自分は、何が好きで何に没頭できるのか?」がいまいちわからない。
そこで、“意識高い系”大学生がやりがちな、「自分探し」をはじめた。正直、飲みサークルに入って遊んで過ごすキラキラ大学生が羨ましかったし、なれるものならなりたかった。でも私の場合は、違うベクトルに力を注がないと自分が消えてしまいそうな感覚があった。
だから大学の授業を真剣に受け、留学を志して英語を勉強したり、自己啓発のイベントに参加してみたりした。とにかくフットワークを軽くして、好奇心のままに行動しまくっていたけれど、不器用な気質のせいか、学んだことを消化できていない感覚が続く…。
そうやって自分探しに明け暮れていた大学二年生の初夏。友達からとあるイベントに誘われた。
それが、名古屋大学で毎年開催されている「TEDxNagoyaU」だった。
TEDとは、1984年にカリフォルニアで始まったプレゼンテーションイベント。先駆的な実践者や研究者が登壇し、自身の人生における体験をもとに18分以内で「価値あるアイデア」を発表する。TEDxは、TEDの理念に賛同した人々が、さまざまな地域で独自に展開するイベントで、NagoyaU(名古屋大学)の他にも、全国の大学、高校、企業で開催されている。
私が聴講した2016年の登壇者は8人。NPO、企業のCEO、高校生まで多岐に渡った。
確固とした信念を持ち、社会に対してポジティブな影響を与えようと行動に移す人たちの話はとても心に響く。一方で、私は「自分探し」をするあまり、社会に対してではなく自分の内側にしか意識が向かないなぁ…と引け目を感じまくっていた。
そんな中、目を引く登壇者がいた。
語り口がとてもおだやかで、大学教授なのに偉ぶってないなぁ…というのが正直な印象。
その人が、私と旭地区をつなげてくれた、高野雅夫先生だ。
名古屋大学環境学研究科教授の高野雅夫先生は、「田舎がとんでもなくクリエイティブ」と題したプレゼンをしていた。
普段の高野先生は、バイオマスや小水力発電など持続可能エネルギーの研究をしている。研究のフィールドとして田舎に通ううち、勢い余って(?) 旭地区に移住したという(現在は、岐阜県に在住)。
高野先生は言う。
「今、都会だとドキドキワクワクすることってないんですけど、田舎に行くと毎日が刺激的だなぁと思ったのが移住の理由です」
…ドキッとした。都会でもいまいち幸せになれず、「田舎」へのコンプレックスを抱えていた私は、このひとことを機に話に聞き入った。
旭の移住者たちの取り組みについての話を聞くうちに、〈自分らしく輝ける場〉としての「田舎」の姿をイメージできた。一口に「田舎」と言っても、こんなに活気のある場所があるんだ…!と目から鱗がぼろぼろ落ちる。話を聞けば聞くほど「でも私の故郷とは“何か”が違うんだろうな。とにかく実際に旭地区を見てみたい」という想いが膨れ上がった。
そしてプレゼン終了後。軽食をしながら登壇者と交流できる時間があり、思い切って高野先生に声をかける。ステージ上と変わらない穏やかな笑顔で、「じゃ一回、旭に遊びに来てみます?」と快く受け入れてくれた。
大学2年生の夏休み。旭へ3週間お試し移住することが決定した。
続きは、こちらから↓
市川里穂
4,329 views大学時代、モヤモヤしていた頃、TEDを聞いたことがきっかけで豊田市旭地区のお寺に飛び込み滞在。「ミライの職業訓練校」に参加し、人生のモヤモヤを更に深めつつ、...
プロフィール- コラム
- モヤモヤ大学生の旭暮らし回想録, 旭地区
- コメント: 2
こんにちは。
私は旭出身の者です。
高校から地元を離れ、今は県外で働いています。
俗に言う田舎を出ていった若者のひとりです。笑
コラム興味深く読ませていただきました!
私も昔は田舎な旭が嫌いでしたけど、今は自然も人も素晴らしい地元旭を愛してやまないです♪
そんな旭をどう感じたのか、次回のコラムを楽しみにしています(^^)
みかんさん、こんにちは^^
コメントありがとうございます。
旭出身の方に読んで頂けて嬉しいです♪
別の地域に住んだり、年齢を重ねるうちに価値観が変わったりして気づく、田舎の良さってありますよね。最近は、コロナウィルス で大変な状況だからこそ、都市や田舎のあり方を改めて考えさせられています。
旭の人と自然、とても素敵です!わたしは外部の人間ではありますが、行くたびにパワーを貰っています。なので、ささやかですがコラムを書いて恩返しができたら…と思っています。
ぜひまた感想お待ちしてます^^