香りを楽しむ。【今だから、からだで感じたい森の植物 第1回】

コラム

今回から6回シリーズでコラムを担当する北岡明彦です。

このコラムでは、豊田市内のいろいろな場所で見られる、楽しくて興味深い植物を、毎回3種類ずつ紹介します。

私は1954年2月生まれで、一昨年まで豊田市役所の森林課に勤務していました。小さい時から昆虫が大好きで、高校からはずっと植物の調査観察を行ってきました。現在は豊田市内の植物の分布調査をしています。興味のある方はご連絡くださいね。

イラスト:北岡明彦

 

第1回 香りを楽しむ(永太郎町 和紙のふるさと)

 

小原地区の永太郎町にある市の観光施設「和紙のふるさと」は、国道沿いながら山の中にあるため、駐車場のすぐ横からいろいろな植物に出会うことができます。
そのうち、今回は「香りを楽しむ」をテーマに3種類を紹介してみましょう。

(その1)シライトソウ(白糸草)シュロソウ科

 

名前の由来は、5月下旬〜6月上旬に多数集まって咲く白い小さな花が、ちょっと離れてみると白い糸の房のように見えることです。葉はくすんだ緑色をしていて、10数枚が地面に接して輪状に広がります。同じ科に属し、早朝にピンクの花を咲かせるショウジョウバカマの葉と似ています。

遠目から見ても真っ白な穂状で可愛らしい花ですが、何といってもその甘い香りが魅力的です。
ぜひ、その香りを楽しんでください。その際には、花を手折らないで、顔の方を近づけてくださいね!

そして次に花を真近で観察してみましょう。本当に白い糸のような花弁(花びら)に、白いオシベの葯(オシベの先端についている花粉の入っている部分)が美しく、またまた感動します。

このシライトソウは、ちょっと薄暗くて湿ったスギ人工林の林床に割と多く見られますが、旧豊田市内ではあまり見ることができない山地性の常緑性の多年草です。一度さがしてみてください。

 

(その2)クロモジ(黒文字)クスノキ科

名前の由来は、若い枝の樹皮がくすんだ黄緑色をしていて、その表面に黒いしみ状の模様があり、そのしみが文字のように見えることから「黒文字」と名付けられたといわれています。若枝が黄緑色をしているのが、他の種類との区別のポイントです。

このクロモジの最大の特徴は、枝の内皮が持っている、とっても良い香りです。ちょっと小枝を折ってその樹皮を爪で傷つけてから匂いを嗅いでみてください。ひかえ目ながら優しいミント系の香りがするでしょう。そしてこの若枝を煎じて作ったのが「黒文字茶」で、昔から東北地方のまたぎ(猟師)の人たちのお茶でした。また、最近は内皮から抽出した液が「黒文字エキス」として販売されています。

4月頃に葉の展開と同時に小さな薄黄色の花が房状に咲きますが、本当に目立ちません。
雌雄異株で、雄と雌花の構造が異なりますのでじっくり観察してみましょう。

 

(その3)シロモジ(白文字)クスノキ科

名前の由来は、クロモジに対して「白文字」で、若い枝の樹皮が白っぽい薄茶色で黒斑もないことです。両種とも同じクスノキ科に属する落葉広葉樹で、樹高は2〜3メートルの低木です。

このシロモジの特徴は、その香りです。クロモジがミント系で甘い香りなのに対して、シロモジはちょっときつい香りがします。良い匂いとは言えませんが、クスノキ科らしいものです。もうひとつの特徴は先が三裂する葉で、その基部が小さく丸く凹むことです。一度葉をもんで、その香りを楽しんでください。

この葉は晩秋になると鮮やかな黄色に色づきます。早春、葉が展開する前に黄色の房状に咲く花と、秋の素晴らしい黄葉を楽しむために、日本庭園に植栽することがあります。豊田市内に自生するクスノキ科の落葉広葉樹は、クロモジ、シロモジ、アブラチャン、ダンコウバイ、ヤマコウバシ、カナクギノキと6種類あり、それぞれ枝の内皮や葉に独特な香りを持っています。ぜひ、匂い比べをしてみてください。

北岡明彦

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1954年生まれ。名古屋大学農学部林学科卒。長年、愛知県の林務課に勤める。2005年度より新設された豊田市森林課へ出向。根っからの昆虫大好き少年が、植物・野...

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