雑貨屋だった空き家でリノベーションスタート
古橋真人(以下、古橋)もともとここは深川講聖堂という雑貨屋さんでした。建物の所有者であるご主人が亡くなられてからは空き家になっていました。相続された家主さんは空き家の処遇に困ってみえて、稲武の中心街という抜群のロケーションにも関わらず利用されていませんでした。

ちょうどその頃、first-handの松島さん夫婦が民泊をやってみたいと言われていて、タイミングが合ったので、リノベーションプロジェクトを始めることにしました。
「建物のリノベーションを行ってから事業者を探す」という従来型の不動産賃貸では空間に魂が入らず魅力ある新しいタイプの拠点にはならないと考えていました。そこで松島さんご夫婦と企画からご一緒して、古橋会はオーナーとして家主さんとの交渉などを進めつつ、一緒に横並びの関係で完成に向かってやってきました。
松島さん夫婦は、私が稲武に暮らし始めた2017年2月にはすでにカフェヒトトキを運営されていました。素敵な家具に触れることができて、おいしいご飯を提供される、時代を捉えた素敵な場所だと思いました。
松島周平(以下、松島) 僕たちは2010年の4月に名古屋から稲武に移住してきました。カフェヒトトキを2015年にオープンした時から建物のオーナーである古橋会とお付き合いさせてもらっています。何か新しいことをやりたいねと夫婦で話していた時にちょうど真人さんから話をもらって、僕らがhibiのコンセプトをプレゼンしたのが2018年の冬でした。ヒトトキでやったクリスマス会の時で、みなさんいい感じで酔っ払っていますね(笑)

「ここからはじめる新しい日々」ということで、いろんな”B“を集めた場所にしたいというのが最初のコンセプトでした。Bedベッド、Breadパン、Breakfast朝食、Bicycle自転車、 Beerビール、 Beauty美、Book 本、Bean(coffee)コーヒー豆、Bread美、Body身体、Bee蜂、Brown rice玄米など。ほとんど当初のコンセプト通りにやっていけそうだと感じています。
地域での理解を得ながら前進
森友宏(以下、森) 1年が過ぎ、2019年になると僕らTUNA architectsが登場します。これは松島さんのコンセプトを元に作った模型を見てみんなで考えているところですね。

古橋 リノベーションが決まってから、空き家の権利関係のこと、片付けをどうするのかなど、みんなで夢を叶えるために必要な地固めにかかりました。結構時間がかかって、ある程度決着がついてきた段階でTUNAさんにお声がけさせていただきました。設計者に関しては難易度の高いリノベーション工事になることが予想されたので、とにかくやる気のある方にやってもらうことが一番だと考えていました。探していたところ縁あってTUNAさんをご紹介いただきました。
森 古橋さん、松島さん夫婦の「稲武に新しい拠点をつくりたい!」という熱い想いを受け、設計を引き受けることにしました。2020年、いよいよみんなでhibiを作っていくという段階に入りました。まず最初に現況調査に入りました。
鈴木裕太 かなり生活感が残っている中を、ほこりまみれになりながら調査に入りました。

古橋 次は残置物の撤去です。撤去の相見積もりを取って豊田の街中に住んでいる家主さんの元に何度も通い、金額をお伝えしました。撤去をお願いし、建物自体も古橋会に引き継がせていただきました。

それから地元の宮司さんをお呼びして安全祈願祭を執り行いました。この時に自治区長さん、組長さんもお呼びしました。工事が始まる前に自治区の役員会にもご説明に伺いました。地域にきちんと周知することをとても大事にしました。

できるだけ稲武の業者さんに関わっていただくことも大切にしました。稲武でリノベーションというのは珍しく、業者さんにはとても苦労をおかけしたと思います。それでも次にリノベーション案件が出てくることを見すえて、声をかけさせていただきました。
森 ここから設計に入っていきます。とても複雑な建物だったので気合を入れないといけないなと。稲武にある建物を古橋さんからお借りして1ヶ月ほど出張事務所を設けて設計にかかりました。

これが当時の完成イメージです。

もともとの建物は手前の道路に面して開口部がありました。橋側には大銀杏、石垣、名倉川の美しい風景が広がっていたので、その自然をどうにか楽しめるようにしたい。そこで元々の建物の軸を読みかえるような建築の構成を考えました。

部分的に解体したり弱っている部分を構造補強したりする、既存の建物を生かした計画にしました。
完成後をイメージしたこのドローイングのように、もともと壁で閉じられていた部分が開かれることで、自然あふれる環境、旧商店街と建築を関係づけることができるようになっています。

>>後編/職人さん、地元業者の技術あっての工事に続く<<
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