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「わざわざ」のつくり方【「喫茶室転々」マスターが語る暮らしとつながる商いのカタチ第3回】

コラム

こんにちは、足助・冷田地区の古民家カフェ「喫茶室 転々」の小柳卓巳(こやなぎたくみ)です。平日はITエンジニア、休日は雇われマスターとしてコーヒーを淹れたりしています。

 

本コラムでは、毎回、転々のメニューをご紹介させていただいて、そこにまつわるエピソードや、どういう考えのもとでつくりあげたのかお伝えできればと思います。

 

さて、今回ご紹介させていただくのは「プリン」です。

 
 
 
 
 
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転々の看板メニューであり、デザート類の中で最も人気のあるものになっています。DM等でお問い合わせをいただくのもプリンが一番多いんです。つまり、多くの方が転々にくる「目的」として楽しみにしていただいているのだと思います。

ですので、売り切れてしまったあとに見えたお客さんから「えー、プリンなくなっちゃったんですか…。」ともの凄く残念そうな反応をいただくと本当にいたたまれない気持ちになります。けど、おもてなしの質と自分たちの楽しさのバランスを取っていきたいので、多分これ以上はつくりません。ゴメンナサイ。

ちなみに、もっといたたまれないお客さんもいまして、転々は土日が不定営業なので毎月SNSで営業日カレンダーをお知らせしているのですが、それを確認されずにお休みの日に来てしまう方が結構いらっしゃるんですよ。もう、何と言うか…、こんな山奥まで細い道を頑張って走ってきたのに…、しかも近くに他のお店もないし、ダメージ大きすぎでしょ!中でも一番すごい(?)のは、3回来られて3回ともお休みという方がいました。それなのに「3回目だよ~。ハハッ!」と笑顔で帰る鋼のメンタル紳士。惚れてまうやろ。

皆様、ぜひともSNSをご確認いただいてから向かってくださいませ(懇願)。

 

さて、話題を戻しまして、そんな人気をいただいているプリンがどのように誕生したのか。

これまでのコラムで「普通」を大切に転々の在り方を考えてきたと書かせていただきましたが、お店を始めるにあたり、さすがに普通のものをただ漫然と並べているだけでは誰も来てくれないということは容易に想像がつきます。「あー、今日も暇だねえ」と読書などしながらぼんやり過ごすのも悪くないのですが、それではお店として続けていけないですし、そんな状態3日と経たずイヤになるでしょう。それに、コラム第1回で書いた「自分の好きなことで誰かの役に立ってみよう」にも近づきませんので、お客さんに来ていただくための「わざわざ」をつくる必要があると考えました。

 

転々のある豊田市桑原田町は、冷田地区の方ですら豊田市街に行くにも足助支所方面に行くにも通らない辺鄙な場所にあります。香嵐渓への経路からも外れるので、そのおこぼれを頂戴できる可能性も低い。つまり、エリアマーケティングの常識で考えると飲食店を出すのに最も適さない場所だと思います。そんな場所でお客さんにきていただくためには転々そのものを「目的地」にしてもらわないといけないと考えました。うーん、どうしたものか。飲食店で働いた経験もなければ、マーケティングなんて1ミリも知りません。とりあえず豊田市のページで人口統計をダウンロードして年齢分布や男女比データを眺めたりしました。ほうほう、なるほど分からん。

 

何もひねらずに考えれば、流行りものに乗っかるのが正解のひとつかと思います。当時、タピオカ全盛期でしたので、これを出せば一時的にはお客さんが来てくれるでしょう。しかし、街中のいたるところで飲めるタピオカをわざわざこんな山奥まで来て飲みたいか?と疑問に思いますし、いずれ終息するブームをずっと追い続けるのは「普通に、無理せず、背伸びせず」の全部に反するので僕らにとって全く楽しくないことが目に見えます。

 

そうではなく、こんな山奥まで苦労して来てもらうのだから「わざわざ来てよかった」と思ってもらえるような転々でしか得られない価値を提供しなければいけないと考えました。その上で、おもてなしする僕ら自身が楽しいことが絶対条件。

 

現実的な検討として、ご提供時のオペレーション(=調理から配膳までの一連の作業)を想像して、夫婦ふたりいるけど、コーヒーはハンドドリップで時間がかかるから僕は他を手伝えない。妻ひとりで盛り付けするわけだから短時間で盛り付けできるシンプルなものにしないと回らないな。たまたま持っていたかわいい器を使えると良いな。それから、この古民家の雰囲気に調和するもにしたいな。このあたりが必要条件でした。

いろいろメニューを悩みましたが、最後は息子の好物ということが決め手でした。やっぱり頼りは子どもたち。売れ残るの楽しみだねっ!(←困るぅ…)

 

決めてからは、毎日これでもかとプリンを試作する妻。卵白と卵黄の比率をあれこれ変えたり、お砂糖も上白糖、グラニュー糖、きび砂糖など様々試したりしていました。型もガラスやアルミをとっかえひっかえ。中でも一番苦労していたのがオーブンの焼き加減でした。材料の分量を変えると同じ温度と時間でも食感が大きく変わってしまうので、好きな味と理想の固さの絶妙なバランスを見つけるまでに何個焼いたことか。当然、作ったら確認のために食べますので毎日毎日プリンなんです。家族全員分。

味は毎回ちょっと違うのですが、さすがに辛い。もう食べたくない。プリン地獄。食べ過ぎで正解が分からなくなってくる。しまいには巨大プリンの中に引きずり込まれる夢まで見て、もはやプリンが怖いよ!憎いよ!…最後は嘘ですが、本当にしばらく見たくもありませんでした。さすがの子供たちも、ひとりふたりと脱落していき、末っ子だけが最後まで毎回おいしそうに食べていました(半分はやさしさだったのかも?ありがとー涙)。

そんな子供たちの協力もあって、ようやく理想のプリンが出来上がりました。皆さんが喜んでおられるプリンの裏側には、そんなビターカラメルより苦い奮闘の日々があったのでした。ちゃんちゃん♪

 

この「わざわざ」をつくるということは、プリンだけでなくお店づくり全部で大切にしていることです。普通の古民家だからこそ、僕らのこだわったものを並べたいと思っています。それは、お客さんに喜んでいただきたいのはもちろん、自分たちが惚れ惚れするような空間で楽しく働きたいなと思っているからです。

 

例えば、人気席となっているクラシックなテーブルとイスと絨毯。

 
 
 
 
 
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スイーツたちを何倍もおいしそうに見せてくれるお皿とカトラリー。

 
 
 
 
 
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転々のどこかにいる光るアヒルちゃん。

 
 
 
 
 
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それぞれ特徴のあるものばかりで、一見すると古民家と合うかしら?と思うかも知れませんが、そこは妻のセンスが炸裂して見事にバッチリはまるんですよ。ホント不思議。僕は残念なくらいセンスがないので、この辺りはまかせっきり。妻には絶大な信頼を寄せています。サンキューマイワイフ。

 

出来上がっていくお店やメニューを見て「あぁ、組み合わせなんだなあ」と妻のセンスに感心していたのですが、後にたまたま出会った本『アイデアの作り方』を読んだら、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」という趣旨が書かれており、「これかーっっ!!」と驚いたとともに深く納得したことを覚えています。お店作りをしている最初の頃は明確に意識していなかったので、もっと早く読んでいればちょっと楽だったかも。

 

僕ら夫婦のような凡人以下の人間には、ゼロから新しい何かを生み出すというのはほとんど無理で、事実、転々でそんなことはひとつも起こっていません。好きなものや素敵だなと思う既に自分の中にあるものを丁寧に並べてみたら、あらま何かちょっと新しい感じになったじゃない、という程度のものでしかないんです。けど、それでもお客さんがすごく喜んでくれるので、恥ずかしながらこれをアイデアと呼んでみても良いのかなと思います。

 

ほんのひとりふたりの人間、しかも家族という近い関係性にある者同士であっても、それぞれの個性を組み合わせてみるとアイデアが生まれる可能性があるんだなと。それが古民家プラス、プリンであり、調度品であり、焚火であり、JaliPAYなんだなと。

 
 
 
 
 
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喫茶店という不特定多数のひとが訪れる空間にいると、会社員をやっているだけでは絶対に出会わない職業の方や、僕にない価値観を持っている方とたくさん出会えます。焚き火やキャンプをすると仲良くなれてお客さんがお友達になったりもします。どんどん自分の中に新しいパーツが増えていく感じがして、やりたいことが無限に広がっていきます。

 

それに、会社員を続けていることで、新しくやりたいことにチャレンジする経済的リスクが低減できます。経済的にリスクが少ないと精神的な余裕も持てます。誤解を恐れずに言うと、チャレンジが失敗したって何度でもやり直せばいいやと思える強さとユルさが持てるという感じです。専業だったら僕は失敗が怖くてチャレンジできないと思います。だから転々は妻名義の事業にしていて、僕はそこで好きに遊ばせてもらう雇われマスターとして都合の良く週末を謳歌しているんです。サンキューマイワイフ。

 

それではまた。

小柳卓巳

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1981年生まれ、やや瘦せ型のメガネの右利き。平凡な幼少期を経て平均的なITエンジニアをやりつつ、運とご縁に恵まれて妻とともに2019年に「喫茶室 転々」を...

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