第2回 口に入れる、かぐ、目で楽しむ。(稲武町面ノ木峠ブナ原生林)
前回は小原の植物を紹介しましたので、今回は稲武地区にあるブナの森で見られる興味深い樹木を3種類紹介しましょう。面ノ木峠は北設楽郡設楽町(旧津具村)との境にあり、標高は約1000メートル。愛知県で最も素晴らしいブナの原生林が残っています。
ブナの巨木は樹齢400年に近く、そろそろ寿(樹)命に近づいています。茶臼山高原道路の面ノ木インターチェンジを下りた所にある駐車場の周りがすでにブナ林で、中には遊歩道もあります。
ここでは多くの植物に出会えますが、今回は五感のうち、味覚、嗅覚、視覚で楽しめる樹木を紹介します。
イラスト:北岡明彦
(その1)ミズメ(カバノキ科)
私がミズメにつけたニックネームは「サロンパスの木」。その心は、枝の皮を爪ではぐと、サロンパス(湿布剤)と同じ清々しい香りがするからです。それは、樹皮の内側にある内皮にサロメチールの成分を含んでいるのが原因です。
加えて、長三角形の葉が1カ所から2枚ずつ、枝の左右につくことから、「ニコニコ・サロンパス」の呼び名を付けました。他にはあまり特徴がありませんので、伸びた枝に2枚ずつ右左右左と葉がつくことに注目してください。そして、枝の皮を少しはいで、匂いを嗅いでみてください。サロメチールの匂いがしたら、ミズメで決定です。
このミズメを木曽地方ではミズメザクラと呼び、樹皮をはいで弁当箱などの曲げ物に使った他、材を道具の柄や家具などに使ってきました。また、梓川の語源となったアズサは、この木の別称だと言われています。
花は目立たない、葉にも特別な特徴はない落葉性の高木ですが、一度探してみてください。サロメチールの香りがすると、アッと驚くことは必須です。
(その2)タムシバ(モクレン科)
猿投山や下山地区の山で「早春にコブシの花を見た」という話を時々聞きます。でもこれは間違いです。豊田市内には残念ながらコブシの自生はありません。全部、同じ仲間のタムシバです。花の見分け方はただ1点で、白い花弁が6枚ある大きな花の根元に緑色の小さな葉が1枚あったらコブシ、無かったらタムシバです。来年の春には、しっかり確認してくださいね。
葉の形も全く異なり、タムシバの葉は細長いのが区別点です。そして最大の特徴が、葉の味です。ちょっと葉っぱをちぎって噛んでみてください。ちょっと甘みのあるミント系の芳香が、口の中に広がります。
このことから、名前のタムシバ、元々の名前はカムシバ(噛む柴)と呼ばれるようになったのです。ちなみに「柴」は雑木のことで、「お爺さんは山へ柴刈りに」の柴です。芝刈りではありません。
残念ながら、面ノ木峠ブナ原生林の豊田市側にはタムシバはなく、津具側の天狗棚展望台でのみ見られます。葉が出る前の4月下旬に純白の花が咲き、面の木峠の一番花として森を彩ります。ぜひ早春の花を楽しんだり、夏に葉を噛んだりして、タムシバに親しんでください。秋の黄葉を天ぷらにしても、ちょっと変わった味が楽しめます。
(その3)ヤマボウシ(ミズキ科)
ヤマボウシを漢字で書くと「山法師」です。面の木峠では、6月中〜下旬の梅雨時に純白の花をびっしり咲かせます。でも、本当は、あの白い花びらのように見えるものは、花を守るために葉が変化して色づいたもので、「総苞片(そうほうへん)」と呼びます。4枚の総苞片の中央にある緑色の球が、本物の花が球形に集まった「集合花」です。花びらは無く、オシベとメシベに萼(がく)だけがあります。
このように美しい部分が葉の変化したものであるため、普通の花びらより丈夫で、花の美しい白色が長く続くのが、ヤマボウシの特徴です。
この素晴らしい花を視覚で楽しめるほか、秋には真っ赤に色づいた実を味覚で楽しむこともできます。面の木峠では、10月上〜中旬頃に、直径2〜3センチの真っ赤な球形の実を食べると、ちょっとバナナに似た甘い味がします。中には、薄茶色の硬い5ミリほどの種子が何個も入っています。
また、ヤマボウシは庭木としても重用されています。枝が水平に階段状に広がる美しい姿、初夏に咲く白い美しい花、秋の紅葉と3拍子そろった名木で、尾張地方の造園業界では「利休七選花」のひとつとして大切にされてきました。実は我が家の庭の主要木のひとつが、3本立のヤマボウシです(ちょっと自慢)。
面の木峠周辺には、樹木だけで100種類以上が、それぞれの性質に適した場所に生えています。春夏秋冬、すばらしい自然が楽しめますので、一度訪れてみてください。でも初めて葉に触ったり、実を食べたりする時は、必ずベテランの人に安全を確かめてくださいね!
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