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園舎がないからできること【森のちいさなようちえんで育つ おおきなかぞく第2回】

コラム

 

今回は、『森のようちえんの魅力について、なぜ園舎を持たず自然の中で過ごすのか』についてお伝えしたいと思います。

 

遊佐美絵(ゆさ・みえ) 北海道夕張市出身。小・中・高と地元夕張で過ごす。高校卒業後アルバイトをしながら自分のやりたいことを探す。23歳でボランティアとして1年半アメリカで過ごす。帰国後お金を貯めるために豊田で働き、その後結婚し豊田市民になる。2010年から野外保育とよた森のたまごの代表として日々奮闘中。

 


 

園舎がない森のたまご

 

一般の幼稚園は室内で過ごせる園舎がありますが、野外保育とよた森のたまごは、開園当初から園舎となる建物を持たずに、毎日野外で過ごしています。
園舎が必要ないかと言われると、やはり天候によっては雨風がしのげる場所が必要ですが、必ずしも必要というわけではありません。

 

もし園舎を持つことになると、それなりの経費がかかってくるので、やはり運営面で厳しいことは確かです。この10年園舎なしで活動してきましたが、やはりそれほど必要性は感じていません。

 

園舎がないメリットは何でしょう?大きく分けて3つあります。

 

・天候の変化を感じることができる
五感で感じるので、肌に感じる風や匂い、または雲の動きで天候の変化を感じ取ったり、体の温度調節機能の感度が上がる。

 

・様々な天気を楽しむことができる。
晴れの日はもちろん、雨の日も雨に打たれることを楽しんだり、突然出現した小川に興奮したり、濡れると気持ち悪いと感じたりできます。

 

・私たちの命に欠かせないものと感じる
太陽はあたたかい、雨が降ると植物が喜ぶなど、自然には日差しも雨も必要だということを教えなくても自然に学んでいくことができます。

 

一つ一つが子どもたちの体に良い影響を与えていて、幼児期につくられた様々な機能は、これからも丈夫な体として子どもたちを守ってくれるのです。

ここからは、現在森のたまごに通うお母さんへバトンタッチします。

 

通ってみて見えるもの

 

こんにちは!長男を年少の時から森のたまごに通わせている母(ささ)です。息子は今、年長さんです。

入園する前「園舎がないこと」に心配な気持ちがありました。自分が幼い頃は園舎のある市営の保育園に通っていましたし、園舎があることが普通だと思っていたのです。雨風から守ってくれることはもちろん、園舎は子どもたちの心も「守り安心させてくれるもの」だと思っていました。

 

それでも“自然のなかで過ごして色々なことを感じながら育って欲しい”との想いで、森のたまごに通わせることを決めました。けれど、親としては実際に通い始めてからも「園舎があったらな」と感じることがありました。

 

それは雨の日、自分が保育当番に入ったときのことです。子どもたちが雨でビショビショ泥んこになって着替える際に、壁に囲まれた場所がないので風に吹かれたり、屋根やタープの下でも地面がぐちょぐちょだったり。更には、せっかく着替えたのにまた雨の中に戻っていく…「かんべんしてー!」と心の中で叫んだことが数回。普段は外遊びが良いけれど、大雨のときくらいは室内でも良いよね…と思ったのです。

 

しかし、子どもたちを見ていると、雨の日も遊ぶこと、それが”普通”なのです。雨を浴びるのも泥んこになるのも気の向くまま、思いつくまま。カッパを着て雨の中に突進していきます。雨でできた地面の水の流れを広げて川を作ったり、屋根を伝って落ちてくる大量の水を自分で切った竹の筒に入れて遊んだり、タープや屋根の下で濡れた葉っぱや泥を使ってごっこ遊びをする子など、子どもそれぞれが普段と違う遊びを楽しみます。

 

そして、しばらく遊んで「濡れて気持ち悪い」、「寒い」と感じたら自ら着替えを求める。年少さんは自分で着替えることが難しいのですが、当番さんが手を貸してくれたり年長さんが気付くと手伝ってくれたりして着替えを済ませます。園舎がなく、学年毎に部屋の区切りもない森のたまごでは、年齢の違う子ども同士のやり取りも日常です。雨の日の保育は、園舎がないことでできる野外保育の魅力のひとつなのでした。

 

そんな子どもたちの姿を見続けるうちに私は、“子どもたちにとっては園舎がなくても全く問題ないのだ”と感じるようになりました。その場で楽しいことを見つけたり、遊びを思いついたりするのは子どもたちの得意技。園舎がなければ、ないそのフィールドで自分たちがそれぞれ楽しく過ごそうとするのです。

 

最初心配していた“園舎がないことによる不安な気持ち”は子どもたちから全く感じません。森のたまごでは、自然のなかで起こり得る危険を予め予測し、大人全員が共有するリスクマネジメントの機会をしっかり設けています。保育当番に入るスタッフと母たちが危機管理を学び、子どもたちに伝え、子どもたちは自然の中で自らの体験として危険なこと、危険な生き物などを知っていきます。スタッフや母たちのあたたかい見守りのなかで、子どもたちは安心して遊んでいるように感じます。

 

お山が園舎

 

1年前に森のたまごの拠点となるお山ができて、今は子どもたちにとってそのお山が園舎のようになっています。四季ごとに変化するお山の植物、昆虫たち。風が心地よい時期もあれば暑い日も寒い日もありますが、その時々を体感しながら遊び、過ごせることがとても贅沢なことに思います。

 

お山ではよく火を着けてみそ汁を作ったりご飯を炊いたりします。特に冬は寒いので、毎日火を着けて温かいみそ汁で暖まります。焼き芋のシーズンでもあるのでいつも誰かのお芋が炭の下に埋まっています(子どもだけでなく大人もウキウキ)。何度もやることで、次第に自分で火を起こせるようになっていく森のたまごの子どもたち。

 

虫を探しに行ったり、工作のための竹を切ったり、お昼ご飯の場所を気分で変えてみたり…場所は同じお山でも毎日やることが違います。子どもたちにとっては“森のたまごのお山”という大きなフィールド全部が自分たちの「ようちえん」であり遊び場のようです。

 

お山で子どもたちが安全に思いっきり遊ぶためには、大人がその環境を整える必要があります。お山の整備はとても大切で、今安全に保育ができるまでの状態になっているのは、お山の地主さんはじめ、OBと在園児の保護者、OBのおじいちゃん、あいち森と緑づくり事業の交付金をいただいて、整備の指導をしてくださった小原で活動している自給村の皆様、山道の整備をしてくださった藤村産業(株)様、たくさんの人たちとのご縁と協力を頂いたからこそです。

 

歩きやすくなった坂道や見通しの良くなった藪、屋根のある小屋などを見るたびに、携わってくださった人たちに感謝の気持ちが湧いてきます。整備はとても手間暇がかかることですが、お山に手を掛けることで親たちにとっては「自分たちのお山」というとても愛着がある場所になっています。これも“園舎がないからこそ得られるもの”ではないでしょうか。

 

「園舎がある・ない」に関わらず、きっと子どもたちはどこででも楽しむことができるのだと思います。けれど森のたまごではあえて、“園舎を持たないことで得られる体験”を、自然のなかで、子どもも大人も日々楽しんでいます。

 

次回は、森のたまごの共同運営についてお伝えしたいと思います。
どうぞお楽しみに!

縁側編集部

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