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焚き火、どうでしょう?【「喫茶室転々」マスターが語る暮らしとつながる商いのカタチ第4回】

コラム

こんにちは、足助・冷田地区の古民家カフェ「喫茶室 転々」の小柳卓巳(こやなぎたくみ)です。平日はITエンジニア、休日は雇われマスターとしてコーヒーを淹れたりしています。

 

本コラムでは、毎回、転々のメニューをご紹介させていただいて、そこにまつわるエピソードや、どういう考えのもとでつくりあげたのかお伝えできればと思います。

 

さて、今回ご紹介させていただくのは「スウェディッシュトーチ」です。

 
 
 
 
 
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なんと食べ物じゃない!!

(縁側さん大丈夫ですか?このコラムはカフェとして執筆依頼を頂いたと思っていますが大分はみ出ましたよ!)

 

そう、実は当店、焚き火ができる喫茶店なのです。

「ちょっと何言ってるか分からない」と言う状態の方も多いと思いますので、まずは「焚き火ってなによ?」から説明します。ちなみに、喫茶室を目当てに来て頂いたお客様から何度も「焚き火ってなにするんですか?」と聞かれます。「焚き火」という単語だけでは、それだけ謎ってことなんですね。

 

「火を焚きます。あとは好きにどうぞ。」

 

「え…?」

 

これが大体のお客様の反応です。

困り顔を見てニンマリしたら次の説明へ。

 

切り込みを入れた丸太「スウェディッシュトーチ」に火を点けるのですが、これがよーく燃えるんです。

 
 
 
 
 
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転々がご提供するのはスウェディッシュトーチとこれを燃やす場所だけ。

あとは、ただぼーっと炎を眺めるもよし、持参した食材を炙って食べるもよし。

「あとはお好きにどうぞ」なのです。

 
 
 
 
 
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どなたも本当に楽しんで頂けて、後日、別のお友達を連れてリピートしてくださる方もいらっしゃるくらいです。宣伝のつもりはないのですが、本物の炎の暖かさ表情のある揺らめき静かな里山と満点の星空の下でパチっと爆ぜる炎を囲む特別な時間。焚き火の魅力は文字や写真では絶対に伝わらなくて、体験された方だけが感じられるものです。

 

どうですか!お客さん!?

宣伝のつもりはないのですがー(棒)

 

(さぁて、宣伝も済んだところで)なぜ喫茶店なのに焚き火をやっているのか。

実は僕の自宅は薪ストーブを使っています。

 
 
 
 
 
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その名の通り燃料は「薪」、つまり、「木」です。その木をどこから得ているのかというと、近所の山からです。

 
 
 
 
 
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そう、この緑豊かなこの冷田地区の山々から家族を温める燃料を有難く戴いているのです。ところが、実は「豊か」に見えるのは表面だけなんです。どういうことか。実は冷田の山々の多くは植林された人工林なのですが、もう何十年も適切な手入れが行われず放置状態となっているのです。手入れされない人工林は、間伐もされないため密集状態となり太く育ちません。

加えて、枝打ちをしないため節だらけとなり、太さの面でも質の面でも木材として利用することはできません。次に枝葉が伸び放題となり山の表面を覆ってしまうため、地表に太陽光が届かず下草が生えません。すると、雨で表土が流れてしまったり、保水力の低下に繋がります。これが進行すると土砂崩れのリスクが高くなると言われています。つまり、木々が生い茂るがままになった山は、表面の見た目に反して荒廃しているのです。実際、山に入ってみると昼間でも薄暗く草も生えていないし、木は背ばかり高くて細いものばかり。生育不良なのか倒れてしまった木も散見されます。

 
 
 
 
 
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林野庁によると「日本の国土面積(3,779万ヘクタール)の約7割を森林面積(2,505万ヘクタール)が占めており、そのうち、人工林面積は1,020万ヘクタールで、森林面積全体の約4割です。」とあるので(詳細はこちら)、こうした状況が日本の至る所で起きているのではないかと思っています。

 

すると何が一番困るのかって、僕が山から燃料を得られなくなっちゃう!

 

「日本中まで話を広げといて自分のことかーい」と突っ込まれそうですが、これは冗談ではなく近い将来起こり得るリアルな自分事なのです。山が育てる「木=燃料」を戴いている身分ですので、山がいつまでも健全でいてくれないと僕は家族を暖められなくなってしまいます。山が崩れるようなことがあれば最悪ここに住めなくなってしまいます。

灯油ストーブやエアコンがあるやん?と思った方、そのエネルギーがどこでどうつくられて、いつまでそれに依存できるか想像してみてください。…少なくとも僕は、薪ストーブを始める前はそんな教科書みたいなことを言われてもリアルに想像できなかったし、「伐採=森林破壊=悪」と思っていたし、ましてや木を燃やせば二酸化炭素が出てダメじゃんと思っていたし、賢い人たちが新技術を開発してまあ何とかなるでしょ!と本当に恥ずかしいことですが何もかも他人事でした。それと、これまた本当に失礼で恥ずかしいことですが、山を育てておられる林業従事者の方々に感謝することもありませんでした。今は身近に超かっこいい山師がいて、超尊敬しているし、超抱かれたい。あ、最後は嘘。

 

山からの恵みを戴いている身分として、何かささやかでもできることはないか。たまたまネットで知ったスウェディッシュトーチをつくることを思いつきました。スウェディッシュトーチなら幹が細くても枝だらけでも問題ありませんし、チェンソーで切り込みを入れるだけなので製造も簡単です(「簡単??」と思ったあなたの感覚は正しい)。山から運び出す際も40cmくらいに刻めばいいので楽(木材用だと2m以上は必要で、伐採したての木は水を含んでいてすっごく重いのです)。

しかし、続けていくにはお金にしていかないといけません。最初は焚き火する人がたくさん訪れるキャンプ場に置いてもらうことを考えましたが、多くのキャンプ場は直火禁止です(「直火」は地面に直接薪や炭を置いて燃やすこと)。スウェディッシュトーチは直火とみなされると思われるし、かといって焚き火台に乗せて燃やすには背が高くて危険。うーん、どこでなら燃やして大丈夫だろうか。

 

「あ、転々で燃やせばいいじゃん」

 

転々敷地内に砂利広場があるので、ここでなら比較的安全に燃やせる。灯台下暗し!トーチだけに!(←あんまり上手くないぞ)

さあ、そうと決まればいつも頼りにしている子どもたちの出番。燃やす場所「ファイアープレイス」をみんなで作ることにしました。ざくざくスコップで穴を掘って、そこらへんに転がっている石をせっせと運んで並べて、汗だくになって完成!着火剤にする松ぼっくりも敷地内でたくさん拾ってきてくれて、こんな狭い範囲で完結する地産地消はじめてだわ(笑)サンキューチルドレン!

 
 
 
 
 
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そんなこんなで立ち上がった「転々焚き火事業部」。

始めてみると結構な割合で「生まれて一度も焚き火したことないです」という若いお客様が多くて驚きました。そんな焚き火初体験の方にとってはすごく特別な体験となり、ものすごく喜んでいただけるのですが、一方で冷田のような田舎住まいの人にとって焚き火は割と日常の行為なんです。草刈りしたら燃やすし、農業をしていれば野焼きもします。それを「焚き火」とは思わず生活の一部として。なので、この都会と田舎のギャップがウケてるのかなと思いました。

 

ある日、近所の爺様がスウェディッシュトーチを見て「お前ようこれ知っとるな!」と驚いていました。聞けば、昔はそれこそ生活の一部として同じものを使っていたそうです。何と呼んでいたのか聞きそびれてしまいましたが、最近になって「スウェディッシュトーチ」だなんて洒落た名前で知られるようになったものが実は昔からあったのか!と驚くとともに、炎と寄り添った昔の生活に「豊かさ」を感じました。

 

そして、それを転々で新しい世代が同じように感じているのかもしれないと思うと、「都会と田舎のギャップ」はただ都会の人たちから必要なものが欠けているだけなのではと思いました。さらに、焚き火をすることでほんのちょっとだけ森林サイクルを回して、遊ぶことで里山再生に参加できていると考えると、転々焚き火事業部は「まさに“三方良し”じゃないか!」と我ながらニンマリ。

 

ヒトが火を扱いだして100万年以上と言われています。これだけの時間があれば遺伝子レベルで炎に愛着や敬いを抱いても不思議じゃありません。世界中の神話に火にまつわる神が登場するのも納得です。また、日本では1950年代頃まで一般家庭でも薪が利用されていたそうです。つまり、焚き火が日常から消えてほんの70年程度。母数は100万年。やはり、都会の人たちから必要なものが欠けているのだと思います。

さあ、もう僕が何を言いたいかお分かりですね。

 

どうですか!お客さん!?

宣伝のつもりはないのですがー(棒)

 

それではまた。

小柳卓巳

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1981年生まれ、やや瘦せ型のメガネの右利き。平凡な幼少期を経て平均的なITエンジニアをやりつつ、運とご縁に恵まれて妻とともに2019年に「喫茶室 転々」を...

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