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子どもと大人の距離感【森のちいさなようちえんで育つ おおきな家族第6回】

コラム

コラム第6回は、子どもと大人の距離感についてお話したいと思います。

 

2010年から手探りで始めた森のたまごですが、年数を重ねるごとに「子どもとはどういう生き物なのか」、「親とはどういう感情を抱くのか」が見えてきた気がします。

森のようちえんを始めるにあたり、衝撃を受けた言葉があります。毎年秋に開催される『森のようちえん全国フォーラム』に参加した時に、日本の森のようちえん創始者でもある内田幸一(うちだこういち)氏がおっしゃった一言、それは「子どもの成長を邪魔するのは親です!」 。普通に考えて、親は子どもの成長を一番に願っている存在で、子どものためなら何でもできるとどの親も思っているはずです。

しかし親がなぜ子どもの成長の邪魔なのか、10年の活動から見えてきたのは、親(大人)は、子どもを思うが故先回りしてしまうということ。例えば、子どもがケガをしないように危ない場所を避けるように促したり、遊んでいる子どもたちが物の取り合いになりそうになると、「順番だよ~・貸してって言いなさい」など、子どもの気持ちややりたい気持ちを無視して、その場を仕切ってしまいがちです。

子どもたちの成長に欠かせないのは「経験する」ということです。

森のたまごOBのお父さんでもあり整体師の小黒泰之(おぐろやすゆき)さんから、2年前と昨年(とよたつながる博)子どもの世界のヒミツと題して子どもの体や成長のヒミツを教えていただいた中で、“人は産まれてから、段階を経て体に必要な動きをする”ことを学びました。まさに森のようちえんで活動することの大きな意味も感じることができました。

森のようちえんでは、自分のやりたいことをとことんやることを大切にしています。斜面を登りたい子は毎日上り下りを繰り返しています。大人から見て何が楽しいのか分からない行動でも繰り返す経験をすることで、成長していくのです。

 

では、心はどうでしょう? 心の成長も経験です。 

怒った気持ちをどの様にすればいいでしょう? 大きな声で叫んだり、泣いたり、仏頂面で黙り込んだり、少し離れた場所に身を置いて気持ちを落ち着かせたり、大人に気持ちを訴えたり、色んな気持ちの出し方がありますが、私たち大人はそっと見守り必要最低限の言葉かけをするだけでいいと思っています。

 

昨年、年中の終わりから卒園まで通っていたM君の話をしたいと思います。

森のたまごに通った期間はほんの1年でしたが、彼の変化はものすごいものでした。

6月の始まってすぐの事、遊んでいる時に私がカナヘビを捕まえました。子どもたちは欲しい欲しいと言いましたが、自分で捕まえて~と言い渡しませんでした。カナヘビが欲しかったM君は、泣いて叫んでカナヘビが欲しいと訴え続けました。それはものすごいエネルギーで山中に鳴き声と叫び声が響くほどとても長い時間でした。

M君にあげることは簡単ですが、自分で捕まえられるようになって、捕まえられた時の喜びを感じて欲しいと言う思いがありました。カナヘビをくれない私に対して、ミエなんて嫌いだ!とも言われました。

それから数か月たった秋の日、カナヘビを自分で捕まえられるようになり、日々生き物を捕まえては名前を付けてかわいがっていたM君。しかし可愛がっていたカナヘビが持っていた手から逃げてしまい、探したけれども見つかりませんでした。

ショックで怒れてしまいましたが、前のように叫ぶことなくシクシクと涙を流し、みんなのいる場から少し離れた木の陰で少し留まっていました。周りの子もどれだけ可愛がっていたか知っていたので、“どのくらいのカナヘビが欲しいの?”など声をかけていました。

そのうち木の陰からみんなのいる場所に戻り、どのくらいのカナヘビが欲しいか説明し始めました。

それを見たときに、ほんの数か月前に泣き叫んでいたM君の大きな成長を感じずにはいられませんでした。

日々、心の動きがあることで、自分の気持ちや感情をコントロールできるようになるんだと思います。

 

私たち大人の距離感は、人それぞれですが自分で考えること・感じ切ることを大切にしています。

親にとって我が子が悲しい思いをしている姿を見るのは心苦しいかもしれませんが、だからといって気分を無理やり変える言葉(お菓子をあげるから泣き止みなさい、泣いていたら鬼が来るよなど)を言ったとしても、大人が子どもをコントロールしているだけで、子どもが感じる経験をすっ飛ばして子ども自身の成長はないと思います。

 

 

もう一人K君のお話をしたいと思います。

3年前、K君は年長で、自分のやりたいことを言葉で上手く伝えたりする子でした。

ある日お母さんが当番で一緒に遊んでいたけれど、1学年下の弟の方にお母さんが行ってしまい、怒れちゃったK君。焼き芋を手に持ちながら涙がぽろり・・私はお母さんの代わりにはなれないので、声をかけずに、“泣きたいだけ泣いていいよ、怒りたいだけ怒っていいよ、私はあなたの味方だよ”と言う想いで傍に座っていました。

そうするとK君は、頭を私の肩に付けて持っていた焼き芋を半分こして無言で差し出してきました。しかも大きい方をくれたのです。普段は「1番大きいのがいい!」って言う子なのに大きい方をくれるなんて驚きましたが、K君の心で何がどう渦巻いていたのか分からないけれど、少なくとも自分で気持ちを整理したんだと言うことはわかりました。

K君が小学校に行ってから会う機会があり、友達に「この人誰?」と聞かれ、私のことを「ともだち!」と答えていました(笑)。

 

森のたまごの入園説明会で伝えていることですが、大人が子どもに何かを教えて育てる教育ではなく、大人も子どもも共に育ち合う共育を目指して日々実践しています。

 

以前、NHKの子育て番組でもおなじみの汐見稔幸(しおみとしゆき)氏の講演会で「言葉がない方が五感が発達する」と聞きました。例えば、「これ食べられる?」の疑問に言葉がなければ、匂い・触る・味をみてみる=五感が発達する。私もよく冷蔵庫に残った食材を賞味期限で判断するのではなく、匂い・見た目・味でまだ食べられるか確認しています(笑)。

 

人は昔から自分の五感を使って生きるようにできていて、今の便利な時代では人間の五感をフル活用できていないように感じます。

しかしこれからの時代、更に体で、心で感じ考えることが必要になってくると思います。

大人が子どもたちにできること・・大人は少し口を閉じ、子どもが何をどう選ぶのか見守ること、そして思い切り遊ばせ、心を動かし、たくさん経験することで豊かな子どもに育つということ。今回の連載を通じて、ひとりでも多くの皆さんに届くことを願っています。

全6回の森のたまごのコラムを読んでいただきありがとうございました。

言葉では伝わり切らない部分や表現もたくさんありますが、森のたまごはこれからも子どもがいる限り活動していきたいと思っています。

コラムの感想も送ってくださると私たちの力にもなります。

 

今まで読んで下さりありがとうございました。

 

森のたまご

在園母・スタッフ一同

縁側編集部

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