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シフォンケーキをこじらせて【「喫茶室転々」マスターが語る暮らしとつながる商いのカタチ第1回】

コラム

 

こんにちは、足助・冷田地区の古民家カフェ「喫茶室 転々」の小柳卓巳(こやなぎたくみ)です。

 

平日はITエンジニア、休日は雇われマスターとしてコーヒーを淹れたりしています(「雇われ」の所以は次回以降にご説明します)。

この度、有難いご縁をいただきましてコラムを執筆させていただくこととなりました。
みなさま、どうぞお手柔らかにお願いいたします。

本コラムでは、毎回、転々のメニューをご紹介させていただいて、そこにまつわるエピソードや、どういう考えのもとでつくりあげたのかお伝えできればと思います。

 

さて、というわけで、今回ご紹介させていただくのは「シフォンケーキ」です。

 
 
 
 
 
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いきなりややマニアックな内容で恐縮ですが、一般的なシフォンケーキのレシピでは小麦粉は薄力粉のみを使うところを、転々では強力粉を一定の割合で配合しています。さらに、生地を混ぜるときには力いっぱいしっかり混ぜて意図的にグルテンを形成させ、ふわふわ+もっちりした食感を出しています(いつも指がつります…)。

小麦粉は、いくつもの種類と配合比率をあれこれ変えて試作して自分が一番好きな食感を見つけました。ちなみに国産小麦粉です。他の材料や手順もそれなりにこだわっておりまして、えっと、ただ、ちょっと、書き出すとキリがないので今日はこのあたりで(笑)

 

実はこのシフォンケーキが転々の原点です(図らずも韻を踏んでしまいお恥ずかしい)。

もともと夫婦ともにものづくりが好きで、僕は木工、妻はお菓子づくりや裁縫で子どものものや暮らしの中で必要なものをちまちまとつくっていました。下手くそでもお手製のものを子どもたちが日々使ってくれると、ただ「買う」ことでは得られない喜びがあるよなあと実感していました。お店に並んだ中から気に入るものを選んでお金と交換するのではなく、自分たちにとってちょうど良い価値を生み出す心地よさがあるという感じですかね。

 

そんなある日、とあるシフォンケーキ専門店の商品を買って食べてみたところ(「いや、買うんかーい」と突っ込むところ)、弾力のある食感と上質な卵とわかるその味に驚いてしまいました。また食べたい!がしかし、お店までは往復1時間以上。…あ、その時間あればつくれるやん!?これがシフォンケーキをこじらせるきっかけとなりました。すぐさま本やWebでレシピを漁っては焼き、焼いては失敗し、失敗が悔しくて1日に2回焼くこともありました。こじらせ男子が止まらない(そう、実はシフォンケーキは僕が作っているんですよ)。

 

こうして段々と理想の味と食感に近づいていき、子どもの誕生ケーキがこじらせシフォ、、、じゃなくて手づくりシフォンケーキになっていきました。きれいにデコレーションはできないので、家族みんなで遊びながらクリーム塗って、フルーツ乗っけて、ろうそく立てて、我が家だけのお誕生ケーキづくりを楽しんでいました。

 

シフォニストレベルが上がってきたので、たまにお友だちが遊びに来たときに得意気になってシフォンケーキを焼いてあげると、すごく褒めてくれました。疑うことを知らないウブな僕は、社交辞令とも見抜けずにすっかり真に受けてしまいました。さらに、ご近所のマダムからは「お店出せるんじゃない?フェスタ(ふれあいフェスタ冷田)に出たら?」という軽い冗談を本気にしてしまい、もう完全に浮かれポンチなわけです。ついに我を失い、勢いで営業許可を取得して本当に出店してしまいました。

 

ちなみに、今回は深く触れませんが、コーヒーも似たような経緯で、妻のために始めた焙煎を大いにこじらせて、シフォンケーキとともに出店するに至りました。

実際に出店してみると、シフォンケーキもコーヒーもたくさん作ったつもりが、驚いたことにどちらも完売。子どものため、家族のために始めた「日常」が地域の人たちにまで広がった瞬間でした。

 
 
 
 
 
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その後「ふれあいフェスタ冷田」に何度も出店させていただくようになり、さらには地域の人たちが必要としてくれるならばと注文販売も始めました。次第に本業の方でもちらほらご注文頂けるようになり、ケーキやコーヒーを持って出社することが増えてきました。取引先のお客様からもご注文いただいて、朝駅でお渡ししてから自分の会社に行くという遅刻ギリギリのエクストリーム出勤をすることも。

 

こうして、ちょっとずつ流れが大きくなっていくのを感じ、以前からふわっと妄想していた「お店やったら楽しそうかも?」を現実のものとして意識し始めました。とは言え、物件を借りて、大きな初期投資をしてまで始める度胸はないので、最初は自宅を改装することを考えました。Webで調べたり保健所に相談したりすると、生活用の空間と、店舗用の空間はしっかり分離しなければならないことを知りました。つまり、キッチンをまるっと一式増設するのと、生活空間との間に鍵付きの扉を設置するなど、思っていた何倍も大変な準備が必要でした。ぐぬぬ。

 

そんなとき、妻の祖母が施設に入ることになり、住んでいた家が空くことになりました。そう、今の転々の建物です。ずっと人が住んでいたので、当然キッチンはあるし、生活者がいなくなるので店舗空間との分離も不要です(厳密には従業員用の空間と客室との分離は必要です)。快く使っていいよと言ってくれたお義父さんには本当に感謝しかありません。

 

そこから喫茶店にすべくリノベーションが始まりました。僕の下手くそDIYでは埒が明かないので、元大工のお義父さんに存分に手伝ってもらいながら、飲食店営業許可に必要な設備を休日のたびにちょっとずつつくっていきました。

 
 
 
 
 
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許可基準を満たすための部材や業務用厨房機器など、結局それなりに初期投資はありましたが、やれそうな部分はやったことなくてもとりあえず自分たちでやってみたので、失敗もたくさんありましたが安くできたし、何より楽しみながらやれました。お金を使って業者さんに外注していたら、もっと早くもっときれいにできていたと思いますが、こうした楽しみは半減していただろうなあと思います。

 

そして、ついに2019年10月20日「喫茶室 転々」がオープンしました。

自治会やつながりのある方々からお祝いのお花をいただき、予想していたよりたくさんの方にご来店いただけて、自分が考えていたより大きなことを始めてしまったのかもしれないと少しドキドキしたことを覚えています。

 
 
 
 
 
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ということで、今回は転々を始めるきっかけについてお話させていただきました。

思い返せば根っこはいつも「子ども」だったと思います。きっとこれからも。

サラリーマンしながらわざわざ喫茶店をやっているのも、親が楽しく仕事して幸せに生きてる姿を見せるのが一番の教育かもしれない、という考えがあるからです。会社辞めて喫茶店一本にしたら、楽しさを最優先しづらくなるし、こんな山奥でビジネスとして成り立つのかサッパリ見込みがなかったので、ダブルワークという形で無理しない範囲でやっています。

 

自分が幸せになるためには、自分を支える家族が幸せである必要がある。家族が幸せになるためには、家族を支える地域の人が幸せである必要がある。そんなふうに幸せの連鎖をつくっていけたらなあと。そんな理想を思い浮かべながら転々を作りました。

そのために、自分の好きなことで誰かの役に立ってみようと。

 

それではまた。

小柳卓巳

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1981年生まれ、やや瘦せ型のメガネの右利き。平凡な幼少期を経て平均的なITエンジニアをやりつつ、運とご縁に恵まれて妻とともに2019年に「喫茶室 転々」を...

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