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初対面どうしの大人と中学生の対話ってどんな感じ?豊田市キャリア教育プログラムtsumuguの1日に密着!

レポート

初対面の大人と中学生が、膝をつき合わせてお互いの人生を語り合う時間。
そんな対話の場をつくるのが、豊田市主催のキャリア教育プログラム「tsumugu(つむぐ)」です。

このプログラムは島根県益田市の取り組みを参考に、2024年度に実証事業として開催されました。その経緯と担当者の想いは、以前の記事で取材させてもらいましたのでご覧ください。

昨年は、大人と中学生の双方から「前向きになれた」という声が多く寄せられ、継続が期待されていたこのプログラム。2025年度、市内5つの中学校で開催されることが決定しました。

今年度、最初のtsumuguは2025年10月4日、豊田市立若園中学校で行われました。大学生ボランティアを含む大人42名が参加し、中学2年生の生徒たちと真剣な対話を交わしました。その一日を振り返ります。

それぞれの想いを胸に集う大人たち

12時30分。体育館の入り口に、続々と大人の参加者が現れ、受付には列ができ始めていました。リラックスした表情の人もいれば、やや緊張した面持ちの人も。何がきっかけで申し込みしたのか、数名に尋ねてみました。

「昨年参加した友人の話を聞いて、興味が湧きました」

「自分が主催する地域の事業があり、“参加者”の立場を体験してみたくて申し込みました」

皆さん、それぞれの想いを胸に、平日の昼間にも関わらず時間をつくって参加しているようです。

対話に臨む心がまえ

「お集まりいただきありがとうございます」

事務局の深見太一さんの挨拶で、大人向けの直前研修がスタートしました。

まずはアイスブレイク。配付された自己紹介シートを手に、3〜4人で自己紹介し合います。

場が和んできたところで、深見さんは呼びかけました。

「中学生との自己紹介タイムの際には、自分の苦手なことも話してみてください。中学生が自己開示しやすくなると思います」

続いて、tsumuguの目的や対話で大切にしたいことが共有されます。

「 私の言葉に本気で向き合ってくれる大人がいる、自分は一人じゃないと思える、そんな機会を中学生の皆さんに届けたいです。どんな背景を持つ人でも、目の前の相手の可能性を信じて対話していただけるとうれしいです」

さらに、配付された“対話する上で大切にしたい8つのこと”を確認し、どんな点を心がけて対話したいかを近くの人と話し合いました。

直前研修の最後に、深見さんは注意事項を伝えます。

「生徒と話した内容をむやみに他者に言いふらさないでください。いじめや命に関わる情報を聞いた場合は、スタッフに教えてください」

参加する2年生の学年主任、石川和貴先生からは、学年の特徴について話がありました。

「若園中学校では各学年に名前を付けていて、2年生は“TRY学年”と呼ばれています。未来の自分、未来の人のために何度でも挑戦しようという意味が込められています。今年は“自分らしい未来って何?”をテーマに学習を進めています。今日の対話では、皆さんに未来への架け橋になっていただけたらうれしいです」

次は、円陣タイム。大人たちは少し戸惑いながらも手をつなぎ、「良い対話にしましょう、オー!」と一斉に掛け声をかけました。自然と笑顔がこぼれていました。

花道で迎える生徒の入場

大人たちは花道を作り、拍手と笑顔で生徒を迎えます。

元気いっぱいの子、気恥ずかしそうな子、さまざまな表情を浮かべる生徒たちをMrs. Green Appleの曲『青と夏』が包み込みます。会場は高揚感に満ちていました。

深見さんは入場した生徒たちに語りかけます。

「対話の際、隣の班と距離を取るので、先生にも友だちにも聞かれずに、安心して何でも話して大丈夫です。話したくないことは、話さないで良い、聞いたことを言いふらさないという2点は覚えておいてください」

班分けと対話のスタート

大人はそれぞれ1から44までの札を手に後方に立ちます。

中学生は、あらかじめ知らされていた自分の番号を目指して、札を持つ大人のもとへ向かいます。

期待と不安が入り混じる中、大人1人と生徒3人で班が完成しました。

体育館のスペースいっぱいに広がり、班ごとに腰を下ろします。隣の班の話し声が聞こえないよう配慮されています。

まずは、事前に準備した自己紹介シートを使った自己紹介タイムです。その後、大人が「人生グラフ」を見せながら自分の人生を語りました。人生グラフとは、生まれてから現在までの印象的なできごとと、その時の感情をグラフで表したシートです。

大人は時々遠い目をしながら、表情豊かに語ります。それに向き合う生徒たちは、前のめりになって真剣に耳を傾けていました。

1対1の対話

大人と生徒1対1の対話では、まず生徒が大人に人生グラフを紹介(約5分)、その後対話をします(約10分)。残り2名の生徒は、大学生による「人生紙芝居」を聞きます。これを3回繰り返します。

取材陣も、「対話の時には近づかない」というルールを守る必要があったため、内容は窺い知れません。しかし、表情や仕草から、温かい対話が交わされていることが伝わってきます。

対話を終えたある生徒に、感想を聞いてみました。

「人生はまだ長いから、今をそんなに重く考えなくてもいいと言われたことが印象に残りました。初めて会った大人と、いろんなことが話せて楽しかったです」

突然の質問に戸惑いながらも、良い経験だったと教えてくれました。

人生紙芝居―大学生の語り

人生紙芝居コーナーでは、大学生が手書きのスケッチブックをめくりながら、自らの半生を語っています。

大学2年生のしおさんは、小学校では吹奏楽、中学では生徒会、高校ではダンス部と、さまざまな活動を通して仲間と支え合いながら経験を積んできました。第一志望の大学には届かなかったものの、受験勉強をやり切ったことも振り返ります。

「どんな時も周りの人に支えられてきました。ありがとう、ごめんねを伝え、困っている人を助けてください。それが巡り巡って自分に返ってきます。周りの人を大切にして素敵な思い出をたくさん作ってください」と、優しく話しました。

大学1年生のじゅんやさんは、小学生の頃は少しやんちゃで、廊下に立たされたこともあったそうです。中学で、数学をわかりやすく教えてくれる先生に出会い、その姿に憧れて「自分も数学の先生になりたい」と思うようになりました。

高校受験では第一志望に合格できませんでしたが、その挫折が転機になりました。高校では卓球部に入るつもりが教室を間違えてバスケ部へ。さらに剣道部に入ろうとして間違えて入部した生徒と仲良くなり、その子が生徒会長になったことから、じゅんやさんも生徒会に参加することに。

広報委員として学校の公式インスタグラムを立ち上げると大きな反響があり、その取り組みが評価されて大学に推薦で進学できました。

「失敗しても落ち込まず、前向きに真面目に取り組めば何とかなる。みなさんもその気持ちを忘れずに」と、やわらかい笑顔で話しました。

互いへのエールを贈る

すべての対話が終わると、生徒たちは元の班に戻り、人生グラフのワークシート『 “ミライ”を考える』の部分を記入します。

さらに、大人と生徒は互いに『今後の人生への応援メッセージ』を付箋に書いて贈り合いました。

皆さん本当にうれしそうな表情をしています。きっと心温まる交流があったのでしょう。

退場の際も、大人たちが花道をつくります。SHISHAMOの「明日も」が流れる中、生徒たちを拍手で送り出します。そのまなざしには「がんばれ」「大丈夫だよ」という、たくさんのエールが込められているようでした。

希望が満ちる―そんな空気が、会場全体を包んでいました。

大人たちも学んだ

最後に、大人は3〜4人のグループで感想を共有しました。

こんな声が聞こえてきました。

「最初からスムーズに話すことができた。最後の見送りの時に手を振ったら振り返してくれて、気持ちが通じたんだなと思った」

「1対1だったからこそ、本音を聞けた気がする」

「自分がリラックスしていないと、話してもらえないだろうと思い、いつも通りの自分でいるように心がけた」

事務局の深見さんは締めくくりとして、「中学生の対話で感じたこと、対話の良さについて周りの方たちにシェアしていただけるとうれしいです」と伝えました。

この日のプログラムが終了した後、二人の大人から感想を伺うことができました。

お一人は、板倉歩さん(下写真の中央)です。

普段、子どもと若いお母さんのメンタルケアの活動をしているので、何かお役に立てることがあればと思って参加しました。3人の女子と対話して、みんなそれぞれ自分の置かれた環境の中でしっかり考えているなと感じました。

それぞれの生徒さんが、「自分の中にある答えを見つけるには、何ができるだろう」と考えるためのサポートができたのではないかと思います。また、「この先の望みを叶えるため、どんな大人になるかを見つけるために、今できることは何だろう」と、未来に向けて自分にできる一歩を、一緒に探しました。

もう一人は、上野津広樹さん(下写真・右)です。

人生グラフを紹介し合って、中学生はそれまで生きてきた14年間が人生の全て、ということに改めて気づきました。今、彼らが「辛い」「楽しい」と感じていることが、僕のように38歳になると、「昔のちょっとしたこと」になって、その後の人生のほうがずっと大事になる。この先も長いということが伝えられたのではないかと思います。また、彼らの悩みを聞いて過去の体験が呼び起こされて「わかるよ〜」と心底共感することができました。

対話がつむぐもの

初対面でも、笑顔で打ち解けることができる。対話の力を改めて感じる取材でした。

「安心して話せる、聞いてもらえる」。この経験は、中学生にとっても、大人にとっても、かけがえのないものになったはずです。

若園中学校に続き、豊南中、井郷中、藤岡南中、石野中でも、tsumuguは開催されます。

温かな対話の輪が、学校、家庭、そして地域全体へ広がっていくことを期待しています。

きうらゆか

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1979年生まれ。2014年、夫のUターンに伴って豊田市山村地域・旭地区に移り住む。女性の山里暮らしを紹介した冊子「里co」ライター、おいでん・さんそんセン...

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撮影 永田 ゆか

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静岡県静岡市生まれ。 1997年から長久手市にあるフォトスタジオで11年間務める。 2008年フリーランスとして豊田市へ住まいを移す。 “貴方のおかげで私が...

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