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手と心を動かす綿と糸の授業|おじいちゃん、おばあちゃん、私もガラ紡やります!第4回

コラム

娘が九久平小学校3年生のときでした。

「野々山さん、綿の授業をしてみませんか?」。担任の先生から声をかけられました。総合学習という単元で、3年生は昔の道具にふれるとのこと。松平で盛んだったガラ紡に、先生が関心を寄せられたのです。もちろん二つ返事で引き受けました。以来、6年間にわたり3年生の総合学習を担当しています。

今年度の九久平小学校3年生は40人。今回のコラムでは、小学校での綿の授業を紹介します。

 

「綿をみたことがありますか?」

 

春は種まきです。本当は児童たちと一緒にできればよかったのですが、今年度はコロナ禍のため断念。先生と相談して、事前に私のメッセージを動画で伝えました。

綿について質問を募集すると、全児童からぎっしり寄せられました。児童たちの期待を感じながら、7月に第1回の授業にのぞみました。

まずは児童たちに綿のドライフラワーを触ってもらいます。「ふわふわ」、「気持ちいい」と歓声があがります。そのときに「畑で綿をみたことがありますか?」と問いかけます。当然ですが、返答はありません。私は得意げに「みんなは毎日綿にさわっているよ」と語ると、児童たちはあっけにとられています。

服のタグを見てもらいます。「綿」、「COTTON」という文字をみつけて「ほんとうだぁ」と驚きます。外国製ばかりであることも発見してもらいます。綿の世界に一歩踏みいれた瞬間です。

 

水をやるより 足音きかせて

 

綿の解説をしてから畑へ。間引きをして支柱をたてます。綿を育てる上で大事なのは、梅雨の時期に雑草負けしないこと。水やりはそんなに必要ありません。児童たちには「水をやるより足音をきかせて。草抜きや盛り土、風で倒れていないかを点検するように」とアドバイスします。

夏の授業のしめくくりは、質問タイムです。児童たちの質問は、

・綿は自然に生えてくるのですか。

・綿は何年も収穫しないとどうなるのですか。

・綿は国ごとに違いがありますか。

・松平では服何枚分の綿があったのですか。

・ガラ紡工場は大きかったのですか? 小さかったのですか?

・どうして綿にくわしいのですか?

大人では思いつかない、ユニークな質問が出されます。全員の質問に一つひとつ答えます。NHKラジオ『夏休み子ども科学電話相談』の先生の気持ちがよくわかります。

 

手紡ぎの糸にチャレンジ

 

仕上げの冬の授業は、4時間たっぷり使って糸紡ぎと組紐づくりをします。糸紡ぎには児童たちが育てて収穫した綿を使います。

まずは、私が手本を見せます。弓で綿打ちをして空気を含ませます。綿菓子のようにふわふわにします。その綿をよりながら手で引っ張っていくと、繊維がからみあって一本の糸になっていきます。歓声があがります。

児童たちには、まず自分の身長の長さまで糸を紡いでもらいます。「えっ~」、「無理だよ」といいながら、チャレンジします。なるほど、すぐに糸が紡げるものではありません。自分は下手だと責めたり、綿をぐちゃぐちゃにして苛立ったり、悲しい表情をみせる児童もいます。生活のなかで、手先を使う機会が減っていると実感するときでもあります。

児童たちには、失敗を重ねて、どうしたらうまくできるのかを体で考え、友だちからも学ぶようにアドバイスします。試行錯誤するなか、コツをつかんだ「そのとき」を見逃さずに励まします。身長の倍以上に紡いだ児童もいますが、「30センチぐらいの長さだけど、できるようになった」、「コツを教えてもらったらできた」という自信を大事にします。

 

リズムにのって組紐づくり

 

次は組紐づくりです。紙コップとクリップ、7本の糸を使います。そのうち1本はガラ紡糸にします。規則正しく組み、ひたすら作業を繰り返すと、組紐がつくられます。2016年に公開されたアニメーション映画『君の名は。』には、重要なアイテムとして組紐が登場します。そこで、組紐づくりのBGMに、バンドのRADWIMPS(ラッドウィンプス)のメドレー曲をかけます。『君の前前前世から僕は〜♪」』というさびに、気分が盛りあがります。

組紐づくりの最初は、「何をしているのだろう」、「本当にあっているの?」という声があがります。しばらくすると、組紐がみえてきます。児童たちの集中力が、がぜん高まります。しだいに組紐づくりのリズムと、BGMのリズムが共鳴します。つま先でテンポをとって体を揺らす児童も、カラオケのように歌いだす児童もいます。ある児童は、集中して「ゾーン」に入ります。話しかけるのがはばかれるほどです。この組紐づくりは、とても濃密な時間です。たっぷり時間をかけます。仕上がったときの満足した表情がたまりません。

 

「もしこの世に糸がなかったら」

 

まとめの時間も大切にしています。

「もし、この世の中に糸がなかったら」と問いかけます。「丸裸で過ごさなくてはいけない」、「死んでしまって、生きていけない」など、当たり前のように着ている服の役割に児童たちは気づきます。糸や布なしに人間は生きていけないのです。

そこで、どんな糸へんの漢字があるのかを児童たちに聞きます。3年生が習う漢字は少ないのですが、『継続』、『結びつき』、『繋がり』、『組織』、『絆』、『縁』という漢字を黒板に書いていきます。糸へんの漢字には、人間が生きていくうえで、とても大事な営みがあると話します。

あらためて、組紐を見てもらいます。一本だけでは味わいがないようにみえる糸や、ガラ紡のようにとても弱い糸でも、7本を組むことで彩りのある丈夫なひもになります。

組紐づくりにはたくさんのカラフルな糸を用意します。かりに10種類の糸から7本を選んでできる組紐の模様は60万4800通あります。みんなで組紐をみせあってもらいます。クラスのなかには同じ模様はなく、一人ひとりがオリジナリティにあふれる組紐です。

人に例えれば、たまたま九久平小学校で、たまたま同じ学年で、たまたま集まった3年1組、3年2組。組紐が一つとして同じ模様がないように、この世界のなかで唯一無二の組(クラス)です。一本一本の糸で個性あふれる紐を組んだように、みんなも一人ひとりが結びつきあって、いとおしい3年1「組」2「組」を紡いでほしい。そう授業をしめくくります。

児童たちには少し難しいメッセージかもしれませんが、糸や綿、手紡ぎや組紐づくりを通して、少しでも周りの景色が違ってみえてくるように願っています。

授業が終わった数日後、一人ひとりの児童から手紙が届きました。多くは「楽しかった」、「勉強になった」という言葉と、新たな質問が書かれています。うれしいものです。

決して良い内容ばかりではありません。「難しくて、よくわからなかった」というするどい指摘には身が引き締まります。

 

地域で生きるものの冥利

 

綿の授業は、毎年工夫を重ねてバージョンアップしています。九久平小学校から異動した先生から「私の学校でも綿の授業をしてほしい」と依頼されるようになりました。

授業では、ガラ紡を特集した松平地区のDVDも上映します。1997年に撮影されましたが、児童たちにかつての松平地区の里山が新鮮に見えるようです。

ガラ紡という松平のローカル産業から地域を学び、綿や糸をとおして見方が広がっていく総合学習の授業。九久平小学校では地域講師という肩書をいただいていますが、地域で生き、地域で活動するものの冥利です。

「中学校でも授業ができないかなぁ」と妄想しています。

野々山大輔

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1971年生まれ。2014年に名古屋から松平地区へ移住。明治時代より続いたガラ紡工場の孫(工場は2000年に廃業)。大給城址のふもとで里山暮らしをしつつ、ブ...

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